一年生の温度差
入学式から1週間が経ち、いつも通りこのみと待ち合わせて登校する。
『おはようございます。』
『おはようこうちゃん。遥ちゃん、あれからどう?』
あれから知香は遥に会っていない。
『少しは話をしていますが、知香さんの事は[なんであんな人が生徒会長なんだ?]ってずっと言ってます。』
『私の事は別にどう言われても構わないよ。』
『そんな事ないですよ。知香さんが居たから今のこのみが居るのは事実だから。』
このみはそう言うが、それでは何時まで経っても溝は埋まらないだろう。
『ふたりの仲が直るんなら私が悪者になっても良いから。』
『……そんな……。いくら遥ちゃんでも知香さんの事を悪く言うのは我慢出来ないです。』
全く可愛い後輩である。
『そうそう。今日はね、学級委員会があるんだけど一年生の学級委員の子たちが初めて参加するんだ。』
このみには関係ない話だが、話のついでだ。
放課後になり、生徒会室に一年生の学級委員たちも集まって学級委員会が開かれた。
『お忙しいところお集まり戴き、ありがとうございます。生徒会長の白杉です。生徒会は他に副会長の吉村さん、書記の佐藤さんの3人と各クラスの学級委員で運営しています。私たち今の執行部は2学期の文化祭までの任期なので短い間ですが宜しくお願い致します。』
先ずは知香が挨拶して、執行部の吉村としおり、三、二、一年生の学級委員が続けて自己紹介した。
さらに、生徒会の活動内容、現時点での実績などを一年生の学級委員に説明していく。
『ここまでで何か質問はありませんか?』
『はい。』
『えっと……一年B組の倉田敦士くんですね。どうぞ。』
遥のクラスの子だ。
『あの、会長さんは男の人なんですか?』
いきなりストレートの質問が飛んできた。
『生徒会の活動とは関係ない話……では無いですね。二、三年生も全員知っているし隠している訳では無いのではっきり言いますが、私は確かに戸籍と身体は男子です。』
一年生たちからどよめきが上がった。
二年生たちが入学した時は知香の事を知らない生徒は居なかったが、一年生は特別授業も無かったらしく知っている生徒は少ないみたいだ。
『所謂性同一性障害で将来は女性になるための手術を受け、戸籍も変える事が出来ますが、中学生の時点ではまだ男の子のまま女子生徒として学校に通っています。縁があって生徒会長をやらせてもらっていますが、なにか不満とかありますか?』
どうもこのみから言われた遥の言葉が引っ掛かる。
『いえ、うちのクラスに会長さんの事を男のくせに女の子の制服を着て威張っているなんて言う生徒がいたので失礼だと思いましたが質問しました。』
遥の事だろうか?
『噂は独り歩きしますが、白杉さんはそんな威張り散らす様な人じゃないですよ。最近ようやく会長らしくなったくらいですから。』
しおりが反論したが、後半は余計だ。
『いえ、僕も今日直接話を聞いて佐藤先輩の言う通りの印象でした。それと、本当に男子だったとは思えないくらいきれいな方で驚いています。』
『ありがとうございます。そのクラスの生徒さんにもそう言って下さいね。』
遥とはこの生徒会室で話をしたが聞く耳を持たない雰囲気だったから倉田が言っても変わらないだろう。
『ちょっと話が逸れますが一年生のみなさんは私みたいな性的少数者のお話を聞いた事がありますか?』
『直接授業などで聞いた事はありません。会長がその性同一性障害だったのも初めて聞いたくらいですから。』
A組の吉田早紀という生徒が言った。
遥も早紀も知香やこのみと同じ青葉台小の卒業生のはずだがこのみと1年違うだけなのにこの温度差はどういう事だろう?
(せめて特別授業でもしていれば遥ちゃんの考えも多少は違っていたかも?山本先生に文句言わなきゃ!)
青葉台小の保健室担当の山本先生は在校時にはずいぶん気を回してもらったが、ふたりが卒業してしまったらもう関係ないのか?
『三中には私の他に二年生にも性同一性障害の生徒が居ます。同時にふたり居る学校は全国でもまだ珍しいかもしれませんがこれからは女の子になりたい男子や男の子になりたい女子が増えていくと思います。まだ誤解されている方も多いですし、改めて学校に一年生のみなさんに対して授業をして戴ける様、生徒会から要請しても宜しいでしょうか?』
『ちょっと待った!』
高木が手を挙げた。
『俺たち、坂東小の連中は青小みたいな授業してねぇから二、三年生も受けたいけどな。白杉や二年の上田の事をよく知っている奴は分かるかもしれないが分かってねぇ奴も結構居るぞ。』
高木も入学した時は散々男のくせにと言っていたが、自分が授業を受けたい様だ。
『早急に先生方に相談しますね。』
顔見せ程度の学級委員会だったはずがまた面倒な事になってしまった。