成長
短い春休みであるが、知香は年末年始にスキーが出来なかったのではずみの部活の休みに合わせて1泊2日の強行軍ではずみと共に長野の実家に来た。
はずみと一郎が仲良くしている間、知香はひとりでスキーを楽しみ、夜は祖母・佐知子の手料理を味わった。
『とももだいぶ大きくなったな。』
『そうかな?いっちゃんにはかなり離されちゃったけど。』
祖父の俊之に言われたがあまり実感はなかったがはずみも俊之に同調する。
『いや、結構背が伸びたと思うよ。今クラスの女子でもまん中くらいじゃないかな?最近制服も小さく見えるし。』
小学校高学年くらいは女子の方が成長が早いので知香が中学に入学した頃はクラスでも前の方だったが、いつの間に追い付き、追い越していたのだ。
『生徒会長が小さい制服着ていたら一年生に笑われるぞ。帰ったら由美子さんに言って新しい制服買ってもらいなさい。』
『後一年だし直せば大丈夫だよ。』
『何を言ってるんだ?生徒会長らしくぴしっとしなさい。正月にお年玉もやれなかったしお祝いもしていかったからこれを由美子さんに渡して制服を買いなさい。』
俊之が札の入った封筒を知香に渡した。
『ありがとう……。』
『良いお爺ちゃんだね。』
はずみが知香に耳打ちをする。
『あ、忘れていた。はずみさんもいずれは私たちの孫になる訳だからお祝いをやらんとな。かぁさん!』
台所に居た佐知子が財布とポチ袋を持ってきて俊之に渡し、財布から札を抜いてポチ袋に入れはずみに渡す。
『一郎を宜しく頼むぞ。』
一郎もはずみも顔を赤くしていた。
知香は帰るとさっそく由美子と共にさくらやに出向いた。
『今からぎりぎり始業式に間に合いますよ。確かに知香ちゃん大きくなったわね。』
店主の節子にも言われてようやく実感する。
『古い制服はどうします?これも直せば着れるし、今はリユースに回す人もいるけど。』
『ともちゃんはどうしたい?』
節子は由美子に聞いたが、直ぐに知香に振る。
『1着は直しでも良いけど、もう1着はこうちゃんにあげても良いかな?』
このみだって入学して1年経ち、多少大きくなっている。
このみはバイトをしているといっても制服に金を掛ける余裕は無い筈だ。
『知らない人にあげるよりは良いかもね。好きにしなさい。』
由美子も了承してくれた。
『こうちゃんは元気にしてる?』
[康太]も放課後見守り隊に世話になった一人なのでこのみになって中学生になった今でも節子は気になっているのだ。
『はい。頑張っていますよ。最近は好きな子が出来たみたいだし。』
豊の事だ。
『好きな人って男の子?女の子?』
由美子もこういう話にはすぐ食らい付く。
『男の子だよ。クラスメイトの。』
『じゃあともちゃんより女の子っぽくなったわけね。』
萌絵と付き合っている知香より豊を好きになったこのみの方が女の子らしいというのは理解出来ない。
『そう言えば、こうちゃんをお兄ちゃんの様に慕っていた遥ちゃんも今度一年生になるのね。女の子になったこうちゃんを見たらどう思うかしら?』
[康太]に妹みたいな子が居たなんて初めて聞いた。
『でもこうちゃん、去年の卒業式は女の子で出ているからその子も知っているんじゃないですか?』
『遥ちゃんも五年生になってからこっちに来ていないから私には分からないけどね。』
放課後見守り隊は主に三、四年生の児童が中心だ。
五年生くらいになるともう親が居なくても直接自宅に帰る児童がほとんどで、今度六年生になるいずみも去年から来ていない。
『遥ちゃんってどんな子なんですか?』
『ちょっとぽっちゃりした子でね、可愛いけど三年生の頃はよく苛められてたみたいでこうちゃんがいつも守ったわ。いつもこうちゃんこうちゃんって後ろに付いて居た感じ。』
だから余計に慕っていたのかと思う。
『こうちゃんが五年生になって見守り隊に来なくなる時なんか遥ちゃんわんわん泣いてね。でもこうちゃんに励まされて四年生の頃はだいぶしっかりしてきたわね。』
[知之]の頃は後輩どころか同級生の友人すら居なかった知香にしてみれば[康太]の頃から社交性のあったこのみが羨ましく思えた。
『知香ちゃんは入学式の時に在校生代表で挨拶するんでしょ?』
『はい。どんな挨拶にするか考えないといけないから大変です。』
生徒会長は毎年入学式で在校生代表として挨拶する事になっている。
『挨拶で自分の事話すの?』
『まさか?それとこれとは別ですから。』
あくまでもいち生徒会長として新一年生を歓迎する言葉を言うだけである。
いずれ新一年生も生徒会長が性同一性障害の元男子生徒である事を知るだろうけど入学式で暴露する必要はない。
間もなく中学生活最後の1年がスタートする。




