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中学生から始める女の子生活  作者: Ichiko
中学二年生編
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金色の初詣

知香と萌絵は公園のベンチに座っていた。


『ねぇ知香、キスして。』


萌絵はいつもと違って積極的だ。


『どうしたの、こんなところで?』


『……だって……知香、いつも一緒に居てくれないんだもん……。』


『大丈夫だよ、いつも一緒に居るから。』


知香が萌絵の唇に触れようとすると、小さな子どもの声がした。


『知香お姉ちゃん、のりこにもキスして!』


二人の前に紀子が現れた。


『知香のウソつき!私と高野さん、どっちが好きなの?』


『どっちって……そりゃ萌絵……。』


そう言い掛けると、紀子が泣き出した。


『うわぁ~ん!知香お姉ちゃん、私の事キライなの~?』


『……そんな事無いよ……。のりちゃん大好きだよ。』


『じゃあ私は何?』


知香は萌絵と紀子の二人に迫られた……ところで


『ちょっと待ったぁ!』


『誰?』


そこでこのみに起こされた。


『知香さん……?』


知香は額いっぱいに汗をかいている。


『ごめん、こうちゃん。変な夢見た……。』


『シャワー浴びた方が良いですよ。』


今年の初夢は散々だった。


(それにしても、最後に出てきたのは誰だったんだろう?)


『知香さ~ん。』


奥の部屋から麗の声がした。


『申し訳ございませんが、お願い出来ますでしょうか?』


『はーい。』


知香は麗を車イスに乗せ、洗面所に連れていき下の世話をした。


このみも一通りこなせるが、知香の方が麗に信頼されている。


ホテルの朝食を済ませて、全員で初詣に出掛ける。


『あけましておめでとうございます。今日は王宮の中にあるワットプラケオで初詣を致します。』


ロビーには倉田が待っていた。


ワットというのはお寺の事で、仏教国のタイには無数の寺がある。


参拝の注意点としてはミニスカートやショートパンツなど露出の多い服装はNGだという事。


知香もこのみもナイトバザールで手に入れた薄手の長いスカートを穿いているが、知らずに来た観光客には貸し出しサービスもあるそうだ。


長く白い壁の脇を進んで行くと大きな門があり、そこから入場すると服装チェックがあった。


日本では真冬だが、バンコクは日差しが強く暑い。


『金色の塔だ。』


アットプラケオのシンボルでもある金色の仏舎利塔の前で写真を撮り、本堂に向かう。


本堂は撮影禁止で、帽子も脱がねばならない。


『日本のお寺とは違うなぁ。』


『知香さんはいつも初詣はどちらに行かれているのですか?』


『長野だと善光寺ですけど、一昨年は瀧宮神社に行きました。』


毎年長野で年末年始を過ごしていた知香だったが、人生の転機となった一昨年の正月は雪菜、はずみと一緒に地元の神社で参拝した。



本堂から王宮、宮殿を見学してホテルに戻り、リバーサイドのレストランでタイ最後の夕食を囲んだ。


『知香さん、このみさん、初めての海外はいかがでしたか?』


『はい、同じアジアなのに全然違うなぁって。』


『とても勉強になりましたし、楽しかったです。』


麗の質問に二人は答えた。


『申し訳ございません。ワタクシがこんな身体でなければ他にもたくさん回れたのですが……。』


麗が申し訳無さそうに話した。


バンコクの有名な寺院は他にもあるが、車イスでの参拝、見学は難しい。


『そんな事言わないで下さい。私は感謝しか無いです。事故はとても不幸な出来事ですが、お陰で私もこうちゃんも麗さんと出会えてご一緒出来たんですから。』


『そうです。私なんか、今井家で働かせて戴くだけでもありがたいのに、連れてきてもらって……。』


『このみさん、ワタクシも父もあなたはうちの家族だと思っていますわ。いずれ……。』


麗は言い掛けたが止めた。


もしかしたらこのみが手術の時に援助があるかもしれないが、それはこれからのこのみ次第だと思う。


『次来る時は手術かもしれないなぁ。』


性適合手術を受けるためにタイに行く日本人は多いが、ほとんどの人は観光をしない様だ。


実際アテンドに頼むとタイに到着した日くらいしか観光する時間が無く、手術が終わった後は帰国まで痛みとの戦いが続き、観光をする気力は無いという。


『また機会がありましたらお誘い致しますわ。』


あまり贅沢な旅行は分不相応だと思う。


日中は日差しが強く、じりじりする程暑いが夜になると、川から来る風が気持ち良い。


『こうちゃん、感謝の気持ちを返すには私たちが素敵な女性になれば良いんじゃないかな?』


『素敵な女性……。』


源一郎も麗も頷いている。


『麗さんのお父さん、麗さん。私たち、今度ここに来る時まで頑張ってみんなから認められる本物の素敵な女性になれる様に頑張ります。本当にありがとうございました。』


初めて迎えた異国での正月はこうして幕を閉じ、一行は翌日の飛行機で帰国した。


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