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中学生から始める女の子生活  作者: Ichiko
中学二年生編
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妹へのキス

夕方、麗の父・源一郎とリカルドが1日遅れで合流した。


『この度はご家族の旅行にご一緒させて戴き、ありがとうございます。』


知香は源一郎に礼を言う。


『君は麗にとって大事な人だからな。リカルドやこのみくんの事もあるし。』


リカルドはたまたま実家に長期滞在していただけのイタリア人旅行者であるが、知香が麗たちを実家に連れていかなかったら縁は無かった訳だ。


『ワタシモカンシャシテイマス。』


リカルドも相変わらず元気だ。


『それにしても君は不思議な子だ。』


『はい?』


『知香くんは今度生徒会長になったそうじゃないか?しかも敵対していた子の怪我の世話をしてその子を改心させた様だが。君は政治の世界に入ればとんでもない逸材になるかもしれない。』


『ちょっと待って下さい!私は政治なんて分からないし無理ですよ。私はただ女の子になりたいだけだし。』


まさかの誘いに戸惑った。


『もしその気になったらその手術の費用は出しても良いと思っている。いつでも言って欲しい。』


(手術の費用を出してもらうのは魅力あるけど私よりこうちゃんの方が大変だし私は子どもの世話の方が良いなぁ。)


上西夫妻もホテルで合流し、今夜はディナークルーズを楽しむ。


一旦部屋に戻り、ディナー用に用意されたドレスに着替えた。


『なんか緊張しちゃうね。』


『はい。』


ドレスに着替えてのディナーなんて二人とも初めてである。


『いずれ慣れますわよ。』


先に麗も知香たちの手で着替えは終わっていたが、やはり経験の差か、落ち着き払っている。


ホテルを出て車で乗船場まで行き、そこからクルーズ船に乗り込んだ。


段差があるので麗はリカルドに抱かれて乗船した。


赤い顔でソファーに降ろされる麗を見て知香は


『麗さんも慣れなきゃね。』


と冷やかした。


『なにを言っておられるのかしら?』


照れる麗が可愛く見えた。


船はライトアップされたワットポー等の名所を進んでいき、食事後は民族舞踊を観賞した。


『ねぇこうちゃん。』


『何ですか?知香さん。』


知香はこのみに小声で話す。


『昨日のニューハーフショーでも思っていたけどああいう民族衣装着てみたいね。』


『良いですよね。私もそう思ってました。』


『手配しましょうか?』


二人の会話に倉田が直ぐ反応した。


『でもそんな勝手な事は……。』


『あら、遠慮なさらなくて良いですわよ。せっかくですから甘えて下さいませ。』


『それでは車イスに乗った状態でも撮影出来る広いスタジオを手配致します。リカルドさん喜びますよ。』


倉田はリカルドに抱かれる麗の姿を見て察した様だ。


『ワタクシもですか?』


『はい。このみさんも頼子さんもご一緒にです。』



知香はその晩、このみと同じベッドで寝た。


『怖いの?』


『……はい……。あ、手術よりここまでみなさんに優しくしてもらって恵まれている事が逆に不安なんです。』


父に男らしくしろと言われ、自分の想いを誰にも伝えられなかった小学生の頃とは違い、女の子として学校に通える今が恵まれ過ぎているというのだ。


『働かせてもらえるだけでもありがたいのに、海外まで連れてきてもらえるなんて有り得ない話ですし。』


『そうかな?こうちゃん凄く頑張ってるって麗さんも頼子さんも言ってるよ。自分が望んで努力した結果じゃないかな?』


知香は当然だと言った。


『知香さんは全然不安じゃないんですか?』


このみは逆に知香に質問を投げ掛ける。


『私だって不安だらけだよ。でも迷わないって決めてるから。お母さんもみんなも応援してくれるから、迷うってみんなを裏切る事になると思うの。』


『うちは……もっとお母さんを助けてあげなきゃいけないのに……。女の子になるのもお金掛かるから。』


せめて源一郎の支援をこのみに分けられたらと思うが、それは別問題だ。


バンコクに来て亜季やキャバレーのダンサーなどを見て迷いを生じている様だ。


『少なくても、今は自分の信じた道を進むしか無いんじゃないかな?私だってこの前職場体験したでしょ?私、子どもが好きだから良い仕事だなぁって思ったけど、そんな考えは甘いって言われてさ。』


陽子の言葉は今も知香の心に突き刺さっている。


『それに女の子になっちゃうと自分の子どもは出来ないから寂しいなぁって思う事もあるんだよ。でも自分で決めた事だし、迷わないで進むしかないと思うの。後悔するかもしれないけどその時はその時だから。』


『やっぱり知香さんは強いです。』


このみは知香から勇気を貰い、元気になった様だ。


『でも私もこうちゃんが一緒だから頑張れるんだよ。これからも一緒に頑張ろう!』


知香はこのみの頬にキスをした。


『……え?……と、知香さんずるいです!』


不意を突かれ、このみはむくれた。


『怒った顔も可愛いよ。おやすみ!』


知香は頭から掛け布団をかぶった。


『もう!……ありがとうございます。おやすみなさい。』


このみも気分良く眠りに就いた。

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