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中学生から始める女の子生活  作者: Ichiko
中学二年生編
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弱虫このみ

翌日、上西夫妻は別行動で新婚デートをさせることになり、知香たちは倉田の案内でバンコク市内で性別適合手術を行なっている病院などを見学することになった。


最初に行ったのは一か月に400件もの性別適合手術を行なっている総合病院だ。


『何これ?大きい!』


『日本人の患者さんも多くて毎月150人くらい日本から手術を受けに来ています。』


性別適合手術だけでなく、顔の整形や豊胸、高い声にするための手術など様々な治療を受けに来るらしい。


『きれいだし、こういうところで手術出来るなら良いね。』


これだけ多くの人が毎日のように手術を受けている事に知香は期待を寄せた。


『次行きましょうか?』


倉田が次に案内した病院も知香はネットで調べて知っていた。


『こちらは個人病院ですが、院長は性別適合手術の権威と呼ばれる名医で、高い信頼を得ています。』


個人病院と言っても規模は総合病院並みで多くの医師やスタッフが働き、患者も多い。


『ここもきれいな病院だね。日本の病院も良いけどタイも良いな。』


知香はいずれ受ける性別適合手術を日本では無くタイで受ける選択肢を強くした。


『なんかちょっと怖い……。』


このみはいずれ自分も手術を受けなければならないことに不安を覚えた。


『大丈夫だよ。先に私がやる事になるだろうから。』


知香は可愛い妹分の不安を振り払う様に言った。


『次行きましょうか?』


倉田は別の場所を案内する。


やって来た場所は、マンションの様だった。


『ここはサービスアパートと言って、日本で言うウィークリーマンションの様なものなんだ。』


ウィークリーマンションと言っても中学生にはピンと来ないかもしれないが、要するに短期で利用出来るマンションの事で、1日からホテル代わりに利用出来、契約期間が長い方が安くなる。


倉田は3人を連れてエレベーターで上階に上がった。


『こんにちは。気分はどうかな?』


『さいあく~。ツラくて死にそうよ~。』


倉田はある部屋に入り、ベッドで寝ている女性に声を掛けたが、その女性が手術を終えた性同一性障害の元男性の日本人だと知香たちは直ぐ分かった。


『あんまり酷い姿は見せたく無かったけどお客さんを連れて来たんだ。』


倉田が知香たちを紹介する。


『夏川亜季よ。ごめんね、こんなみっともない格好で。』


見るからに辛そうだが、普通にしているのならそこそこ美人だと思う。


『夏川さんは日本でどんな事をされているんですか?』


知香は遠慮がちに亜季に聞いた。


『私、東京でタクシー運転手をしているの。以前は別の会社だったけど、LGBTって理解してもらえなくて今の会社に入ったんだけど。』


LGBTでも積極的に採用してくれる会社に入社出来たのだ。


『でも会社は採用してくれたけど回りは結構シビアだし、一番の問題は名前だったの。タクシーって必ず顔写真と名前の入ったカード付けるでしょ?』


知香も生まれてから数回しかタクシーに乗った事は無かったが、確かにそんな記憶がある。


『あれは乗務員証っていって義務だし免許証と同じ戸籍の本名でなければならないの。いくら女の服着てお化粧してもお客さんにはバレちゃうから、1日も早く手術して戸籍を変えたいのよ。』


世の中にはいろいろな職業があり、セクシャルマイノリティを受け入れてくれる企業も増えてきたが、業界ならではの問題もあるのだ。


亜季はベッドに横たわりながら語った。


『でも、手術が終わって辛いのは聞いていたけどこんな死ぬほど辛いなら止めときゃ良かったって思うわ。』


このみが話を聞いて震え上がった。


『でも痛みさえ無くなれば本当の私を手に入れる事が出来るから頑張らなきゃ…………痛い……。』


本当に辛そうだ。


『大丈夫ですか?』


『……大丈夫じゃないけど、自分が望んだ事だから頑張らなきゃ……。ごめんね。これからダイレーションやらなきゃいけないの。二人には日本に帰ったら連絡するから今日はこれまでにして。』


ダイレーションというのは手術によって新たに形成した女性の膣の部分を維持し、拡張する作業である。


人工的に作られた膣は放っておくとピアスの様に閉じてしまうので、それを防ぐ為にダイレーターという棒を入れて拡張するのだが、これが痛くて辛い。


知香たちが部屋を後にした後部屋から悲鳴が聞こえた。


『なんか痛そう……。』


このみはこれから自分も通る道だけに恐怖を感じた。


『このみさんは弱虫なのですね。本来、女性という生き物は男性に比べて痛みには強いのですわ。赤ちゃんを生む時の事を考えてみて下さいませ。』


麗の女性としての発言は説得力があった。


女性として生きるにはこれくらいの痛みは乗り越えなければならないのだ。


『私たち、女の子になっても子どもは作れないんだよね。子どもを生む時の痛みは分からないけどそれに近いものだと思えば我慢出来るはずだよ。』


同じ立場である知香がこのみを諭した。


『知香さん……。』


このみは少し考えて知香に聞いてみる。


『今日、知香さんのベッドで一緒に寝て良いですか?……これからを考えたら怖くて……。』


このみはたまに精神不安定になると医師からも言われている。


『分かった、一緒に寝よ!でも萌絵にはナイショだからね。』


知香たちはホテルの部屋に戻った。

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