知香の職場体験②
知香は園児たちと一緒に給食を食べ、歯磨きをして午睡までの間遊びに付き合い、午睡の時間になった。
午睡はその園児の家庭環境等もあっていち早く寝てしまう子どもとなかなか寝付けない子どもがいる。
『寝られない?』
『……うん……。』
悠太くんは寝付けない子だった。
知香は優しくとんとんと悠太くんを叩きながら添い寝すると3分程で寝息を立てた。
全員が寝たところで、ようやく休憩となる。
『お疲れさま、みんな初日なのにやるわね。』
子ども相手とはいえ、一瞬足りとも気が抜けないので3人は一気に疲れが出た。
休憩といっても先生たちは連絡帳の記入をしたり、午後から出勤した先生と引き継ぎをしたり忙しい。
『あなたたちはゆっくりして良いのよ。』
園長先生に休む様に言われるが、休むにも休めずレポートを書き始めた。
『あらあら、少しは休まないと。』
連絡帳を書き終えた尚子先生が知香たちの前に来た。
『なんか悪い気がして……。』
『気持ちは分かるけど、なんの仕事でも休める時は休まないと身も心もぼろぼろになっちゃうから。見てよ、この肌。』
尚子先生は25歳くらいだろうか?
よく見ると多少しみがあった。
『ね、あなたたちはなんで職場体験に保育園を選んだの?』
『私は子どもが好きで、友だちから将来保育士になると良いって勧められたんです。』
『私も妹が居て小さい頃よく読み聞かせをしたりしてたのでこういう仕事が合うかなぁって思いました。』
知香に続いてのぞみも言った。
『私は……なんとなく……。』
陽子はそう答えた。
『まあいろいろな理由あるからね。でも、実際やってみると大変よ。親だってたまに変な人いるし。』
『変な人?』
『今はそういう保護者は居ないけど、よくあるのは子どもに熱があるからって電話しても出なかったり引き取りに来なかったりね。みんな仕事持っているからしょうがないんだけど他の子に移したら今度は誰々から移されたってクレーム来るの。』
社会に出ると理不尽な事はいっぱいあるが、それが子ども絡みだと尚更面倒な問題になる。
『後ね、男の子なのにスカート穿いて来る子とか。聞くと友だちがスカートを穿いているから自分も穿きたいって言っているそうなの。』
『あ。』
『え?』
尚子先生は知香が性同一性障害である事は知らなかった様だ。
『もしかして、知香先生……?』
『はい、私もそうなんです。』
『園長先生!』
『ごめんなさい、伝えるの忘れちゃって。何しろ朝見た時から男の子だなんて思えない感じだったし、仕事もしっかりしているからつい……。』
他の先生たちも知香の傍にやって来て顔をじろじろ見る。
『へぇー。にきびも全然無いし肌きれい。』
『分からないわぁー。』
『ちょっと、知香先生困ってるわよ。いい加減にしなさい。』
園長先生から注意された先生たちは自分の席に戻っていった。
『あの~、そのスカート穿いて来る男の子って……。』
また知香の好奇心が動き出した。
『駒田ひかるくんよ。今日は調子悪いみたいだから長ズボンだったけど、いつもはスカート穿いて来るわ。』
尚子先生が答えた。
『……気付かなかった……。』
子どもでも自分なら見抜けると思っていたので知香はショックを受けていた。
『さ、子どもたちが起きる時間よ。』
先生たちは園児を起こすため部屋を移動する。
カーテンを開き、部屋に光が射し込んで来ると子どもたちは布団から這い出て目を擦りながら起きて来る。
が、ひかるだけぐったりした様子だ。
『熱があるみたいね、知香先生計れる?』
『はい。』
知香は赤い顔をしたひかるを抱き上げ、パジャマの上のボタンを外して脇の下に体温計を挟んだ。
『尚子先生、37度6分です。』
『知香先生、ひかるくんママに電話するから保健室のベッドに寝かせてあげて。』
忙しくなってきた。
よく見るとひかるは髪を少し伸ばして女の子っぽく見えるしパジャマもピンク色だ。
(名前もどっちでもいけるな。)
と思ったが、少し不謹慎な気がした。
一時間程でひかるの母・京子が迎えに来た。
『申し訳ございません、遅くなりました。』
知香はふらふら歩くひかるを連れて来て京子にひかるのカバンと帽子などを渡す。
『あの、失礼ですが三中の白杉さんですか?』
京子は唐突に知香に聞いた。
『はい、そうです。』
『朝見た時にそうじゃないかと思ったんですが、去年中学校の文化祭に行きまして、白杉さんのお話を伺ったんです。』
(ありさのせいで質問責めにあったやつだ。)
もっともそのお陰でこのみと知り合ったのである。
『今日はひかるがこんな状態ですから無理ですが、改めて少しお話をしたいのですが。』
ひかるについての事だと思うがそれにしても偶然とは恐ろしいと知香は思った。




