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中学生から始める女の子生活  作者: Ichiko
中学二年生編
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甘えん坊のりちゃん

週末、無事紀子は退院して約束通り知香は日曜日に勉強道具を持って紀子の家を尋ねた。


『こんにちは。』


『いらっしゃい、知香さん。』


母の勝子が出迎えた。


事故で記憶喪失だった時のやつれていた感じでは無かったが、少し困った顔をしていた。


『なんかあの子、知香さんに変なお願いしている様で……。』


(え?お母さんに言っちゃったの?)


『退院して薬局に寄ったら哺乳瓶が欲しいだなんて言ったから問い詰めたんです。事故の影響が残っている様なので言う通りにしましたが、いくらなんでもお友だちに飲ませてもらうなんて……。』


(哺乳瓶で授乳?そこまでは聞いてなかったけど!)


『あ、でも紀子さん、記憶が戻る前に私に保育士みたいだって言ってくれたんです。それから将来保育士になろうかなって考え始めて……。だから恥ずかしいけど練習になるしやってみます。』


『本当にごめんなさいね。』


知香は勝子に案内されて紀子の部屋に入る。


『こんにちは。』


『こんにちは、知香お姉ちゃん!』


紀子は幼児声で出迎えた。


『んもう、のりちゃんたら。』


『お願い、二人きりの時は甘えさせて欲しいの。事故の後遺症なのかは分からないけど、知香さんに甘えているとなんか落ち着くみたいだから。』


知香さんと呼ぶ時は普通の声で幼児声は知香お姉ちゃんと使い分けをしている。


『お願い、知香お姉ちゃん!』


なんだか調子が狂う。


勉強も、合い向かいではなく二人並んで寄り添っている。


(こんなところ、萌絵に見られたら大変だな。)


紀子はもともと成績は良いので2週間のブランクはあまり無い様だ。


(勉強の方は萌絵と違って楽だな。)


これなら明日から学校に復帰しても問題は無いだろう。


『休憩しようか?』


『うん、知香お姉ちゃん!』


(あ、催促してる。)


紀子の目はミルクが飲みたい合図だ。


『ちょっと待っててね、のりちゃん。』


知香は勝子の元に行き、牛乳の入った哺乳瓶と知香が飲むジュースを貰った。


『まだ足が不自由とはいえ、お客さまにこんな事をさせてすみません。』


『大丈夫ですよ。結構楽しいし。』


知香は麗の世話をしていた時を思い出した。


お嬢さまの世話をするのは好きみたいだ。


(たまにはこうちゃんの代わりに今井家のメイドさんやっても良いかな?)


一瞬そう思ったが、今井家で一度でもメイドをやったらもう逃れる事は出来なくなりそうな気がして考えるのは止めた。


『のりちゃん、お待たせ。』


『お姉ちゃん、のりこ良い子にして待ってたよ。』


知香は紀子を抱えて哺乳瓶を口に添えた。


紀子は美味しそうに中の牛乳を飲んでいる。


知香はこれから手術を受けて戸籍が女性になっても自分の子どもを作る事は出来ない。


(自分の子どもに毎日授乳するって良いなぁ。)


自分の子どもにミルクを飲ませるのは不可能だが、保育士になれば赤ちゃんに飲ませたり出来るのだから良い仕事だと思う。


牛乳を飲み終わると、今度はおむつだ。


『お姉ちゃん、おしっこ。』


知香は慣れた手付きでおむつを交換する。


『知香さん、良い保育士さんになりそうね。』


おむつの交換が終わると急にのりちゃんが紀子に変わる。


『こら。』


しょうもない甘えん坊さんだ。



翌日、紀子は学校に復帰した。


知香が玄関で紀子を出迎えた。


『おはよう、紀子さん。』


『おはよう、知香さん。』


クラスメイトたちは知香が紀子の事故以来献身的な世話をしていたのは分かっていたが改めて仲良しそうな挨拶を見て驚いた。


知香は左足の不自由な紀子の靴を片足づつ脱がして上履きを履かせる。


『階段大丈夫?大変なら車イス持って来るけど。』


車イスなら昇降機を使って2年生の教室のある3階まで楽に行ける。


『良いわよ、恥ずかしいし。』


みんなの前ではのりちゃんの姿は見せない紀子である。


『本当は乗せて欲しいんでしょ?のりちゃん。』


知香は他の生徒に聞こえない様に耳打ちをすると、紀子は赤い顔で頷いた。


『階段の下で待っててね。車イスと昇降機の鍵、借りてくるから。』


恥ずかしいと言いつつ昇降機に乗せてもらい嬉しそうな紀子だった。


ホームルームの時間になり、木田先生が挨拶をする。


『おはようございます。今日から高野さんが登校しました。高野さんからみなさんにお話をしたいと言う事なので聞いて下さい。高野さん、お願いします。』


学級委員として高木と並んで木田先生の横に立っていた紀子が

先生に代わり壇の中央に移る。


『おはようございます。みなさんにはご迷惑をお掛けして本当に申し訳ございませんでした。演説会で言った通り、白杉さんの机にいたずらをしたのは私です。1学期の時に白杉さんと八木さんの事を黒板に書いたのもそうです。自分が犯人なのに知らない振りをして土井さんと堀内さんを貶めようともしました。こんな私が学級委員なんて資格は無いので辞めさせて下さい。』


既にいたずらをしたのが紀子だった事はクラス全員が分かりきっていたが、この場で学級委員を辞めると言うとは思わなかった。


『はい。』


知香が手を挙げた。


『私は既に高野さんとは和解しました。土井さんや堀内さん次第ですけど、辞める必要は無いと思っています。』


知香は笑顔で発言したが、生徒会長である知香の発言力は学校内でも強く、クラスでも知香に逆らう生徒は居ない。


『私も高野さんを許しても良いと思います。』


紀子に個人的な恨みのある土井も堀内も知香が許すと言った手前、許さざるを得なかった。


紀子は引き続き学級委員としてクラスをまとめる役目を担う事になった。

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