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中学生から始める女の子生活  作者: Ichiko
中学二年生編
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紀子の執念

翌日、紀子は校内放送に臨んだ。


知香を始めクラスの生徒たちは固唾を呑んで校内放送を聴いている。


『高野さんは昨年の副会長に続いて二度目の立候補ですね。』


『はい、去年は私の学校改革の想いが今一つ伝わらなかった様で反省しています。』


森田は慎重に質問を続ける。


『学校改革……ですか?』


『はい。この学校では、毎年苛めの問題が発生しているんですがその殆どが解決されないままうやむやにされています。』


『ごめんなさい、私はあまりそういう話は聞いていないんですけど。』


この学校で苛めは無いと森田は思っていた。


『それは当たり前です。公にならない様にしているんですから。例えば今年卒業した車イスの先輩ですけどその先輩の事故って苛めの一環だった様なんです。』


知香は麗から事故の事を聞いてはいるが、何故紀子が知っているのだろうか?


『それは興味深いですね。』


森田が身を乗り出して紀子に迫る。


『学校では問題になるのを恐れてひた隠しにしたと聞いています。後は最近、私のクラスでも苛めがあって特定の生徒の机に生ごみが入っていたり、落書きをされていたりしました。それも結局犯人は出てきませんでした。先生はそれで終わりにしようとしているんです。私は学校で蔓延っている苛めを一掃したいと思います。』


白熱したトークだった。


(ちょっと待てよ?生ごみの事は先生も言っていたけど落書きには触れてない筈だ。)


落書きをされた机は新学期の始まる前日に交換されたので先生か知香以外は知らない事になっている。


今更[犯人はお前だ!]なんて言うつもりは無いが、紀子は自ら関与している事をばらしたのだ。


しかし、知香の学校に不満は無いという保守的な考えより現実問題を訴えた紀子の方が真相を知らない生徒たちには受けが良かった様だ。


週末の演説会を前に、朝の挨拶でも次第に紀子の方が注目されるようになり、さすがの知香も焦っていた。


『大丈夫だよ、高野の事を知っている二年生はともちに入れると思うし。』


それでも一・三年生の票が紀子に流れれば分からない。


(フェアじゃないかもしれないけれど……)


知香は敢えて禁を破る事にした。


演説会は生徒会長候補が最後に演説をする。


しおりも少し緊張していた様だが見事なスピーチを披露した。


『二年B組、生徒会長候補の白杉知香です。』


知香の演説が始まった。


その前に紀子が苛めを撲滅すると宣言し、大きな拍手を浴びていた。


『先ほどの高野さんの演説、私は凄く感動致しました。』


知香は最初から敵に塩を送る様な発言をした。


『あの机に悪戯をされていたのは実は私です。』


会場がどよめいた。


『高野さんはクラスでも苛めを無くそうと努力をして来られて私の時も懸命に犯人捜しをしてくれました。本当に頼もしい友人です。』


一番驚いたのが紀子だった。


知香は人の懐に入り込むのが得意だとよく言われているがまさかここで出すとは思わなかった。


『私も出来れば誰がやったのか知りたいと思いました。でも、もしそのような行為をしてしまった人を私は無意識に傷付けてしまったのではないかと考えました。もしそうならただ苛めた人を罰するのではなくその人の心に寄り添う、それが私の目標であり、学校もそうあって欲しいと願っています。』


紀子も知香を傷付けていたかもしれないが、知香にも紀子を追い詰める原因があったかもしれない。


紀子はそんな想いを伝える知香に少し恥ずかしくなった。


『私の考えている目安箱はどんな些細な悩みや問題でも書いて伝える事が大事だと思っています。苛めもその些細な問題がエスカレートしていった結果であれば小さな芽のうちに摘み取る事も出来ると信じています。もし高野さんが会長になったら私も高野さんを支えていこうと思いますし、私が会長になっても高野さんと共に苛め問題に積極的に取り組んで頑張りたいと思っています。』


知香の演説の大半は紀子へのエールだった。


拍手の中、知香が壇上の紀子の隣の席に戻ると、紀子は蹲って震えていた。


『……負けたわ……。』


おもむろに紀子は壇上に向かい、マイクを握りしめた。


『ごめんなさい!白杉さんの机に悪戯をしたのは私です!他にもいろいろやってきました!』


今まで拍手をしていた生徒たちはどよめいた。


深々とお辞儀をしてマイクを置くと紀子は体育館を飛び出して行った。


『高野さん!』


知香は追いかけようとしたが、騒然となっている演説会の会長候補が二人とも居なくなっては騒ぎがもっと拡大するので制止され、若い男子の先生が紀子を追いかけて行った。


苛めを撲滅しようと言った本人が苛めをしていたので憤る生徒も居る。


前代未聞の演説会となってしまった。


司会が演説会の終了を告げ、生徒たちが教室に戻っていくと、木田先生の元に携帯電話が鳴り響いた。


『はい木田です。………え、まさか?……分かりました。』


ただ事ではない様子である。


『先生、どうしたんですか?』


傍で聞いていた知香が尋ねる。


『高野さんが車に跳ねられたらしいの。』


体育館を飛び出した紀子がそのまま道路に飛び出して車に轢かれたらしい。


『え?!』


知香も驚きの表情を隠さなかった。

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