初めての海水浴②
知香とこのみは自分たちのベッドルームで水着に着替えた。
『このみちゃん、その水着……。』
このみの水着は知香同様ワンピースで胸も下半身も分かりづらいデザインであるが、少し胸が膨らんで見える。
『これ、萌絵さんが中にパットを縫い込んでくれたんです。』
裏側を見せて貰うと、水着用の透水性のパットが重ねて縫われていた。
『私にはそんなの作ってくれないくせに。』
『ひょっとして焼きもちですか?』
知香も言った後からこのみに妬いている事に気付いた。
『ごめんね、そんな気は無かったんだけど。』
『良いんです。知香さんは尊敬していますし、知香さんと萌絵さんの二人の関係は憧れですから。』
このみは萌絵みたいな女の子が好きなのだろうか?
いろいろ考えると、今回に限っては萌絵を別の部屋にしたのは正解かもしれない。
色とりどりの水着を着て、ロビーに降りると、フロント係に声を掛けられた。
『白杉さま、今井さまから当方の海の家を案内する様言付かっております。送迎バスにご乗車戴ければ駅前に案内人がお迎えしております。』
『そうなんですか?』
『至れり尽くせりだね。』
バスを降りると、金髪のいかにも軽そうな若い男性が待っていた。
『やあみんな、待ってたよ~!どうぞこちらに!』
(なんかホテルのイメージと全然違う!)
萌絵が怖がって知香の陰に隠れた。
『キミたち中学生?そこら辺の変な男に声を掛けられたら直ぐ逃げよ~っ。』
(いや、あなたが変な男でしょ?)
由美子に連絡しようかと迷っているうちに海の家に着いた。
未成年なので行った事は無いが、東京のクラブにありそうな音響機材と舞台があり、イメージしていた海の家とは違う。
『どうぞこちらへ~、8名さまご案内~!』
『これって個室?!』
知香たちは奥の個室に通された。
個室と言っても、ベニヤ板で仕切られただけなので音は筒抜けだ。
『どうしよう、ここから私たち、海外に売り飛ばされちゃうんじゃ……。』
ありさが不安気に言った。
『そんなバカな?変なマンガの見すぎだよ。』
雪奈はそんな事無いと言ったが、子どもだけで来るべきでは無かったかもしれない。
『は~い、みなさんようこそ~!明後日までこの部屋は貸し切りだから自由にしてってね~!』
突然、金色の短髪にビキニ姿の男だか女だか分からない人がトレイに飲み物を載せて現れた。
『あの、失礼ですが、男の方……ですか?』
知香やこのみが興味を持たない訳が無かった。
『あら~、れっきとしたオンナよぉ~ん。正確には元オトコだけど。キャサリンと呼んでね~♪』
『キャサリンさん、て事は手術して戸籍も変えたんですか?』
知香は身を乗り出してキャサリンに迫った。
もちろんこのみも知香に合わせる。
『あら~、どうしたのぉ~?お嬢ちゃんたち、そんなに聞きたいのぉ?』
『はい、私たちふたり、まだ男なんです。将来は手術して戸籍も変える予定なんです。』
キャサリンがふたりを見つめた。
『あらやだ!どこから見ても女の子にしか見えないじゃない?ホントに付いてんのぉ?』
キャサリンが腰を落として水着を捲り、触ってみる。
『あら可愛い!ホントに付いてるわ!』
『あのすみません、小学生も居ますので……。』
いずみに見せない様に自分の陰に隠したのぞみが言った。
『ごめんなさいねぇ~。ワタシも女装子さんやドラァグクィーンさんとな仕事柄たくさん見てきたけどほとんど男って分かったから。いくら若いとはいえ、あなたたちは完ぺきに女の子ねぇ~。』
『あの~私たち、キャサリンさんの様に性転換をされた先輩にお会いするの初めてなんです。良かったら、お話伺いたいんですが……。』
『あらそう?嬉しいわ♪でも今はお仕事中だから夜で良いかしら?』
『宜しくお願いします!ホテルの14階に泊まっていますので。』
キャサリンもホテルから雇われた期間バイトの様だから泊まるので無ければ部屋に招待しても構わないだろうと思った。
『14階ってスイートルーム?あなたたち、何者なの?』
何者と聞きたいのはこっちだと突っ込みたいが、まあ夜にじっくり話は聞けるだろう。
変な不安も解消し、午前中は海に出たり、ビーチで昼寝をしたりして遊んだ。
お昼時になり、由美子と千奈美がやって来た。
ふたりとも水着にサングラス、つば広の帽子姿である。
海水浴やプールに行く事も無かった知香が由美子の水着姿を見たのは初めてだ。
『やだぁ、ともちゃんあんまりじろじろ見ないでよ。』
由美子は若ぶった声で恥ずかしがるが意外にナイスバディだ。
千奈美も負けてはいない感じで、張り合っている様だ。
(のぞみんもメガネを掛けて居るけど結構美人系だしなぁ。いずみちゃんが大きくなったら私より大人っぽくなりそう。)
『ランチタ~イムでぃ~っす!みなさん、どうぞぅ~!』
バス停に迎えに来た変な男が呼びに来た。
『なに?あの変な男?』
『海の家の人だよ。他に性転換した人もいるし。』
店は聞いた事の無いBGMががんがん鳴って落ち着かない。
『お待たせ~っ。今日のランチはロコモコよぉ~ん!』
個室にキャサリンがロコモコ丼を持って来た。
『あ、あの人……。』
由美子は唖然とする。
『見た目はスゴいけど、話してみると良い人だよ。夜部屋に招待しちゃった。』
『まあ、ともちゃんが言うなら間違いないでしょうけど。』
大変な夜になりそうな予感がする。




