特別授業
学級閉鎖が明けて知香も再び保健室に通う事になった。
美久たちに連絡した通り、今日の昼休みに萌絵も来てくれるだろうか、楽しみである。
インフルエンザも一息付いた様で、保健室もいつもの静けさを取り戻していた。
『なるほど、保険証や診察券の名前は男の子だからね。』
病院での顛末を聞いた香奈子が笑う。
昼休みがやって来た。
美久とはずみが萌絵を連れ立って来た。
のぞみはまだ休んでいる様だ。
『……こ、こんにちは、白杉くん…』
萌絵はまだ熱があるのかというくらい顔を赤くして言った。
『知香かチカで良いよ。』
『ホント、知香さんの男の子の時そっくりだ。』
香奈子が笑い、
『でしょ!』
と美久が続く。
『ごめんね、八木さん。』
『……良いんです。私も、知香さんみたいになれるかな?』
それってどういう事だろう?
まさか男になりたいとか……?
そんな風に考えたりしていたが、美久が話題を変えた。
『それよりさぁ、黒川のバカが大騒ぎして大変なの。やっぱりこの間保健室に来た時にチカの事分かっちゃったみたいで。』
まぁ、クラスに戻れば遅かれ早かれ一緒だと思う。
『先生、どうしたら良いの?』
香奈子に救いを求める美久。
『先生の個人的な考えだけど、もうそろそろ教室に戻っても良いかなって思っています。こんなに友だちが増えたんだし、みんなが守ってあげたら大丈夫でしょ?それに、知香さん自身が強くなっているから。』
知香は昔の知之では無い。
それはここに居る誰もが分かっていた。
『じゃあさ、知香親衛隊を作ろう!』
はずみが提案した。
『何それ?』
『男共をチカに近付けない様に見てるの。』
『止めてよ、そんなおやじギャグみたいなの。』
『でもそれ位やらなきゃアイツらうるさいよ。』
美久もはずみの意見に賛同した。
『わ、私も、一緒に良いかな?』
萌絵が小声で尋ねる。
『勿論!あと、のぞみにも言わなきゃね。』
これを受けて、香奈子が知香のクラス復帰を提言する事となった。
翌日、職員会議において知香のクラス復帰が決まった。
学校としては前例が無いだけに慎重だったが、トイレはこれまで通り女子職員のトイレを使う事、体育は卒業まで残りが少ないので見学という事で決着した。
その前に、体育の授業時間を利用して六年生全員に性同一性障害の特別授業を行なう事となり知香もその授業に出る事になった。
特別授業は木曜日の午後、合同体育の時間に視聴覚室で行なう事となった。
昼休みはいつもの様に美久、はずみ、休みから復帰したのぞみ、それと萌絵が来ていた。
『チカ、頑張ってね。』
『あんまりプレッシャー掛けないでよ。』
授業の後半に知香がみんなの前で話をする事になっていた。
『今の知香さんなら大丈夫。先生も応援するから。』
『ありがとうございます。』
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り、視聴覚室に向かった。
六年生全員が席に着いた後、学年主任で二組担任の井沼先生、一組担任の佐藤先生の後、香奈子と知香が入って来た。
自分以外の生徒はみんなこちらを向いて座っている。
香奈子の横に座った知香は緊張して周りを見渡した。
一組の生徒は黒川のおかげで座っている女子生徒が知香だと分かっていた。
二組の生徒は以前知香と同じクラスだった子もいるが誰だかは分かっていない様だ。
一組の中には美久やはずみなどの顔が見えてホッとする。
まず、山本先生が壇上に上がった。
『テレビとかでも最近、性同一性障害やLGBTという言葉を聞いていると思います。私たち人は通常男の子と女の子のふた通りに別れてそれぞれの役目があると教えてきました。』
生徒たちはみな真剣に香奈子の話を聞いている。
『しかし、男の子の中には本当は女の子に生まれたかったと思ったり、女の子でも本当は男の筈だったと思う人がたくさんいます。以前なら男のくせにとか女の子らしくとか言われていましたが、最近は病気の一つとして考えられる様になってきました。』
香奈子が熱弁を揮う。
『今年になって、六年の男子生徒が自分は性同一性障害では無いかと訴えて来ました。その生徒は、小学校に上がる前から自分は女の子じゃないかと悩んでいて、おとうさんおかあさんにも言えなかったそうです。』
知香は(先生、あまり言わないで。言う事無くなっちゃう!)と心の中で叫んだ。
『でも勇気を出しておとうさんやおかあさん、先生や友だちに話をしてこれから女の子として学校に通いたいと訴えてきました。ここにいる六年生一人一人が家庭も考えも違うので全員は無理かもしれませんが多くの生徒が受け入れてくれればと考えています。』
香奈子の熱弁の後学年主任の井沼先生がパソコンを使って具体的な説明をした。
そして、担任の佐藤先生が知香を紹介して壇上に上がった。
六年生全員の前での挨拶。
ごくりと喉を呑み、知香はマイクに向かった。
『六年一組の白杉です。二学期まで白杉知之でした。私は小さい頃から男の子で居る事が嫌でした。唯一、ある友だちの家で女の子の服を着ると本当の自分に会えた気がしました。その友だちとは引っ越して一緒に遊ぶ事が出来なくなって私は一人で悩みました。体育の授業があるとみんなの前で着替えるのが嫌で休むとバカにされ苛められたりして学校に行くのも嫌になってしまいました。でも、学校を休んでいても女の子になる事は出来ません。友だちに手伝って貰っておかあさんに言いました。』
知香は一気に話した。
『それからおとうさん、学校の先生にもお話して病院で女の子になる為の治療を始めました。私は明日から白杉知香としてクラスに戻りみんなと一緒に頑張りたいと思います。宜しくお願いします。』
知香の話が終わるとみんなから拍手が湧き、知香はホッとして壇上から降りた。
『頑張ったね。』
香奈子が褒めてくれた。
『先生のおかげです、ありがとうございました。』
香奈子は知香なら大丈夫と確信して笑顔を見せた。




