このみの入学式
始業式の翌日は新一年生の入学式である。
卒業式でいろいろあったこのみだったが、無事入学式を迎える事が出来た。
知香は生徒会役員として前日の準備に続いて当日も学校に入った所で出迎える役目だ。
『入学おめでとうございます。』
真新しい制服を着た新一年生一人一人にリボンを付けていく。
このみが母の康子と一緒にやって来た。
『入学おめでとうございます。こうちゃん、新しい制服似合ってるよ。』
知香は文化祭でセーラー服姿のこのみの写真を見たが、実際に見るのは初めてだった。
『髪、変じゃないですか?』
卒業式も自毛で参加したが、父親に髪を切られてまだ3ヶ月なので女の子にしては短い。
『少し短いけど変じゃ無いよ。』
『先日はバイトの仲介までして戴いて本当に何から何までありがとうございます。』
康子が知香に感謝してお辞儀した。
『いえ、お礼なら麗さんに言って下さい。お仕事はいつからなの?』
礼をされるのは恥ずかしいので、直ぐにこのみに振る。
『今日から行きます。』
このみは明るく返事をした。
『無理しないで頑張ってね。』
二人は手を振って校内に消えた。
入学式が始まると、卒業式に続いて知香は撮影係だ。
自分も一年前はあんな感じだったと回想しながらファインダーを覗く。
入学式が終わると二、三年生もホームルームだが、大してやる事が無いので直ぐに終わる。
知香はこのみのクラスである一年A組に行ってみた。
このみがちゃんとクラスに馴染めるか心配だったのだ。
知香の入学した時は変な事を言うのは高木くらいだったが、まとまった人数から苛められたり嫌がらせを受ける様だったら耐えられなかったかもしれない。
一年A組はつい先日まで自分たちの教室だったので懐かしいというより間違えて入りそうになる。
一年生もホームルームが終わり、担任の先生が出てきた。
『白杉、上田の心配か?』
担任は社会科の斉田先生だが、お見通しだった。
『はい、すみません……。』
『今のところ問題無さそうだぞ。教室を見てみろ。』
ドアの外から顔を出すと、このみはクラスの男女から囲まれて笑っている。
時おり、短い髪を指摘されたりしているようだ。
『あ、知香さん!』
このみが知香に気付いて手を振ったので、教室の中に入って輪に加わった。
『白杉さん、特別授業を聴いた時はまさかこのみの事だと思わなかったけど、康太がこのみになって学校に来た時みんな白杉さんの言った通りにこのみの気持ちを理解しようってクラスで話しあったんだよ。』
六年生からこのみと同じクラスだった栗橋という男子が言ってくれた。
『みんな知香さんのおかげだよ。私、生活の為にバイトをしなきゃいけなくなったんだけどバイト先まで紹介して貰ったし。』
『中一でバイトするの?どんな仕事?』
特別授業の後職員室に来た安田真理がこのみに聞いた。
『今井さんって今年卒業した先輩の家で家政婦見習いをやるの。制服はメイド服なんだ。』
『へぇー?メイドさんになるんだ!スゴ~い!』
やっぱりメイドというキーワードに女子は反応する。
『青小だけじゃなく私たちにも特別授業やって下さい。白杉さんのお話聞いてみたいです。』
そう言ったのは坂東小出身の高田という女子だった。
『私は先生じゃないから勝手に出来ないよ。あ、そうそう。保健室で浅井先生が性の悩み相談室を開設しているから何か相談したい事があったら来てね。私もたまに居るからね。』
中一くらいになると性の悩みも結構あると思うので宣伝をした。
『そうそう、こうちゃんも浅井先生にはお世話になると思うから保健室を案内しなきゃ。後多目的トイレとかもね。』
『白杉さん、私たち上田さんが一緒のトイレ使っても大丈夫ですよ。』
『私の時もそうだったけど、嫌だって子がひとりでも居るとダメなの。』
真理たち、ここに居る生徒たちは大丈夫だろうけど、そうではない生徒も居るかもしれない。
或いは、親からクレームが来る可能性もある。
モンスターペアレントみたいなのが一番学校にとって厄介なのだ。
『こんにちは。』
『白杉さん、上田さん、待ってたわ。あら、ずいぶんいっぱい?』
知香とこのみに他の生徒も付いてきたのだ。
『心でも身体でもちょっとした心配事があったらここで相談すると良いよ。』
『でも、ひとりで来てね。こんなに賑やかだと悩みも打ち明けられないでしょ。』
浅井先生も一度に来られたら迷惑だろう。
『あ、白杉さんと上田さん。金曜日の放課後に二人だけ身体測定をするから来てね。』
知香ひとりの時は男女の身体測定が終わって直ぐに呼ばれていたが、二人になり、学年が違うので放課後にやる様だ。
『分かりました。こうちゃんも金曜日はバイト無いから大丈夫だよね。』
『はい。』
今までは知香ひとりだったが、このみと二人になると処遇も変わって来るのは知香にとっても心強く思えた。