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中学生から始める女の子生活  作者: Ichiko
中学一年生編
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麗の卒業式

いよいよ麗たち三年生の卒業式の日がやって来た。


『今日が最後だなんて信じられません。』


『本当にお世話になりましたわ。みなさん、ありがとうございました。』


知香たちが麗の車イスを押して通学をするのも今日が最後になる。


『麗さん、答辞読まれるんですよね。[ワタクシたちは今日旅立ちますの]とか言うんですか?』


ありさに誂われるが、麗は平然としている。


『ワタクシはいつも普通ですのよ。』


『私たちが写真撮りますからね。』


美久は写真部として、知香も写真部で生徒会も兼ねて撮影を担当するのだ。


『それはありがたいですわ。綺麗に撮って下さいね。』


『はい。』


学校に到着すると、いつもの様に三年生に麗を託した。


『体育館でお待ちしています。』


知香は笑顔で麗を見送った。



卒業式が始まり、卒業証書の授与が始まる。


A組の出席番号一番の麗が舞台脇の昇降機から舞台に上がり、名前を呼ばれる。


卒業証書の授与は一番最初の生徒だけが以下同文では無く証書を読まれる役得がある。


『卒業証書、今井麗。中学校の全課程を修了した事を証します。令和二年3月13日、F市立第三中学校長沢田幸喜。……おめでとう。』


本来なら演台を挟んで証書の受け渡しをするが、校長は車イスの麗に歩み寄って証書を手渡す。


考えてみると麗のA組の出席番号一番はこの時の為に予め組まれたものだったと、壇の後方で見ていた知香は思った。


途中で麗を挟むと余計な時間が掛かり、流れを止めてしまうからで、今井姓より先になる生徒をA組に組ませない様にすれば良いだけだ。


卒業生全員の証書が渡し終わり、校長先生の式辞、来賓の挨拶と式次第が進んだ。


『在校生送辞。二年B組、児玉清和!』


(送辞って生徒会長がやるのか?面倒そう……)


高野紀子が生徒会長になるのを阻止する為に次期生徒会長に名乗りを上げた知香だったが、少し尻込みした。


『卒業生答辞。三年A組、今井麗!』


いよいよ麗の答辞が始まる。


再び昇降機を使って壇上に上がり、前生徒会長の矢沢しのぶが車イスを押して手助けをする。


(矢沢先輩だ。上手くツーショット撮れるかな?)


知香は舞台袖からカメラを構えた。


『本日は第三中学校卒業にあたり、卒業式を開催戴きまして誠にありがとうございます。』


さすがにいつもの様な語尾にはしていない。


麗は両親や先生、後輩たちに感謝の気持ちを言葉に換えて伝える。

『最後になりましたが、これからも第三中学校のますますの発展を祈りながら卒業生代表の答辞とさせて戴きます。ありがとうございました。』


麗としのぶが壇から降りて、卒業生の歌で締めくくる。


歌の歌詞は[今日までありがとう、また会えるよ]と言うもので写真を撮る事も忘れ、知香は号泣してしまった。



式が終わると校舎の前で在校生たちが祝福をする為に卒業生を待ち受けていたが、突然知香は後ろから呼び止められた。


『中野さん?上西さんも!』


『明日、麗さんを連れて行く所があるんだけど、知香さんにも来て欲しいんだ。』


『どこに行くんですか?』


『残念だけどそれは言えないんだ。悪いけど来てくれるかな?』


なんとなく上西の意図が分かったが確信は持てない。


『分かりました。行きます。』


知香は了承した。



翌朝、知香は麗と共に車に乗り込んだ。


『どこに行かれるのですか?』


『さあ、私も聞いていないんです。』


車は高速道路に入り、東京方面に向かった。


高速を降り、暫く走ると大きな建物が見えてきた。


『リハビリ……センター?』


麗は事故後に地元の病院に暫く入院した後、この場所に通っていたが知香は初めて来た。


『広いですね。』


『ここは様々な障害を持つ人の訓練を行なっていますの。運動場やプール、体育館もあって……』


麗も知香も同時に気付いた様だ。


『上西さん、ワタクシはもうバスケットはやらないと言った筈ですわ!』


『申し訳ございません。練習を見るだけで結構です。綿貫の顔を立ててやって下さいませんか?』


(綿貫……って上西さんと綿貫さん知り合いだったのか?)


『麗さん、折角来たんだから練習見ていきません?私も話を聞いて一度見てみたいと思っていたんです。』


『知香さん……やっぱりあなたが一枚噛んでいたのですね。』


今日ここに来る事は知らされていなかったが、綿貫に協力してくれと言われたのは間違いない。


『やぁみなさん、お待ちしていました。今アップを終えたところです。どうぞお入り下さい。』


綿貫が出迎えた。


体育館に入ると、車イスに乗った15人程の選手たちが汗を流している。


『す、凄い。』


選手たちはコートの中を車イスを自在に操り動き回っている。


健常者がジャンプしても中々届かないゴールに軽々と入れてしまう選手もいた。


休憩となり、一人の選手が麗たちの前にやって来た。


『キャプテンの塚田です。今井さんのお話は聞いています。まだ中学生で事故に遭われて大変だと思いますが、私たちの仲間になりませんか?』


塚田を始め、選手は年配者が多い様だ。


『まあ、ウチは結構歳いっている選手が多いんだけど日本代表も居るし、そこそこ強いんだよ。今井さんの様に若い選手が入ってくれたら嬉しいね。』


日本代表には20歳前後の選手も居るらしいが年齢層は幅広い。


『でも、ワタクシ事故から二年間何もしていませんわ。』


『ふふ、面白い娘ね。小学校の頃から培ったものがあるんでしょ?今から始めれば今年の東京は無理だけど次のパラリンピックには十分日本代表になるチャンスがあるわよ。』


4年後のパリ大会の時は麗はちょうど20歳である。


『麗さん、日本代表だって!凄いですよ。』


知香はもうその気になっている。


『もう、知香さんは!』


麗も知香に言われるとその気がうつってしまう様な感じだ。


『そうなったら私もパリに……あ、無理だ!』


知香は急にトーンダウンした。


『どうされたのです?』


『4年後は私も18歳になるんですけど私の目標でもあるんです。性適合手術が出来るのは本来20歳以上なんですけど、戸籍の変更が18歳から出来るので、手術も特例で18歳から出来るかもしれないんです。』


『そうなのですか?』


『はい、だからパラリンピックに応援に行く事は出来ないと思いますが一緒に4年後を目指しませんか?』


知香が手術をするとしたら夏休みに入って直ぐで、ちょうどオリンピックの時期と重なる。


パラリンピックはその後、8月後半から9月にかけて行なわれるが二学期も始まるだろうし手術をした直後で無理は出来ないだろう。


『もう、知香さんは……。お互いに応援し合えば宜しくて?』


『はい。お互いに、頑張りましょう!』


『これで決まったわね。今井さん、どうぞ宜しく。』


二人の話をずっと聞いていた塚田がここぞとばかりに麗の入部を歓迎した。


いつの間にか麗は知香に乗せられていた様だ。

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