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中学生から始める女の子生活  作者: Ichiko
中学一年生編
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バスケへの誘い

テレビ放送から一週間経った。


知香のみならず他の生徒も顔出しで映っていたので、意外な所から反響があったのだ。


『ワタクシ、卒業式で答辞を読む事になりましたの。』


偏差値が70を超えるお嬢さま女子高に一発合格する麗なら至極当然である。


『おめでとうございます。スゴいですね。』


そんな麗の誇らしげな姿が眩しい。


そう思って歩いていると、見知らぬ男性が近付いてきた。


『登校中に申し訳ございません、先日のテレビを観て登校の時ならお話出来ると思いまして。』


男性の目的は知香では無く麗の様だった。


『私、女子車イスバスケットボールチーム埼玉ブルズのコーチをしています綿貫と申します。2年前まで今井さんが素晴らしいバスケットボールプレイヤーだったと存じていましたが事故にあってバスケが出来ない身体になられたのは知らずにいました。』


綿貫は健常者の麗なら興味が無かったかもしれない。


が、知香を撮ったテレビ番組で下半身不随となった麗を偶然見付けた様だった。


『ワタクシ、事故以来バスケットどころか一切運動をしておりませんのよ。』


知香にも無理だと言っていたのに見ず知らずの男から突然声を掛けられてやる気を起こす訳が無い。


『申し訳ございませんが、通学途中ですのでお引き取り願います。』


丁重に断られ、綿貫は立ち去った。


『たぶんまた来るよ、あの人。』


『何度来られても駄目なものは駄目ですわ。』


頑なな態度の麗だったが、知香は健常者だった頃の麗がどんな選手だったかを知りたかった。


『麗さんがバスケをやっていた頃の映像とか無いんですか?』


『知香さん、そんなものを見てどうするつもりなのですか?過去を振り返ってもワタクシは二度とバスケットボールは出来ない身体なのですよ。』


麗が不機嫌な表情を見せたが、映像に付いては否定していないのである様な気がした。


(後で中野さんに聞いてみよう。)



麗の卒業式まで残り一週間となったが、毎日答辞の文を考えて奮闘しているのか、朝迎えに行くと不機嫌な状態が続いていた。


『おはようございます。夜更かしですか?』


『みなさんの前で失礼して申し訳ございませんわ。あれから毎日あの男が家に押し掛けて来るものですから。』


またどころか毎日とは恐れ入る。


それだけ麗をスカウトしたい才能があるのだろうか?


いつもの様に麗の鞄を中野さんから渡されると、麗に見られない様に一緒にDVDの入った小さな袋も手渡された。


(ありがとうございます、中野さん。)


知香は口には出さず中野さんに会釈した。



自宅に帰り、中野さんから借りたDVDを観た。


麗が中一時代の様だが、他の選手に比べると麗は背が低くバスケットの選手には見えない印象だ。


試合が始まると右に左に素早く動き、相手のボールをインターセプトしたと思うと3ポイントシュートするなど運動が苦手な知香でも麗のセンスの良さが分かった。


(凄いな。もし事故が無ければオリンピック候補になっていたかも?)


そう思っていると、インターホンが鳴った。


『はい。』


『私、女子車イスバスケットボールチーム埼玉ブルズの綿貫と申しますが……。』


(綿貫さんがなんでウチに?)


両親は居ないが、綿貫が不審な人物では無いと分かっているので居間に通した。


『どうぞ。』


お茶を淹れて綿貫に出し、知香も座る。


『あの、麗さんのお話ですよね。なんで私に?』


知香の方から話を切り出した。


『あなたが一番今井麗さんが心を許している人だからです。』


確かにテレビで麗の車イスを押していたのは知香だし、いつもそういう位置で麗とは接していたが、それだけで麗が一番心を許している存在だなんて分かるのだろうか?


『今井さんの家の使用人の方から聞きました。』


(そういう事か。)


『中野さんから?中野さんは麗さんに車イスバスケをやって欲しいって言ったんですか?』


『中野さんもそうですが、運転手をされている上西さんから強く言われまして。』


(上西さん?そう言えば麗さんがバスケを始めたきっかけだと言ってたけど。)


『もともと上西さんもバスケットの選手で、麗さんのコーチもされていたのですが、事故の事が気になって麗さんに一切バスケットの話はされてこなかった様です。』


上西は自分が麗にバスケットボールを勧めなければと後悔していたと聞いている。


『でも何時か車イスでもバスケットを始めると信じて庭のゴールを手入れしていると言ってました。』


確かに、麗がバスケをしなくなって2年も経つのにゴールは綺麗なままだった。


『実は、今事故前の麗さんのビデオを中野さんから借りて観ていたんです。私、スポーツの事はよく分かりませんが、麗さんの動きの凄さは分かりました。』


『では、協力して戴けますか?』


綿貫の目が輝いた。


『最終的に麗さんがその気にならなければ仕方ないですけど、協力はします。』


『ありがとうございます。』


余程の事が無ければ麗をその気にさせる事は難しいが、とりあえずやってみようと思う知香だった。


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