再び特別授業①
週明けになると直ぐに新学期が始まり忙しくなるという理由で日曜日の昼前に学校の外で山本先生と会う事になった。
知香と萌絵、それに康太の母の康子も一緒で四人は駅近くのファミレスで落ち合った。。
『久しぶり、知香さんに八木さん。女子中学生らしくなったわね。』
山本先生は相変わらずの様だった。
保健室通いの時慣れる為に特別に知香は下の名前を呼んだが他の生徒に対しては苗字で呼んでいる。
『初めまして。6年2組の上田康太の母です。』
『養護教諭の山本香奈子です、宜しくお願いします。』
養護教諭と保護者は生徒が授業中に病気やケガで早退する時くらいしか顔を合わせる事が無い。
『白杉さんから大体のお話は伺いました。学校では康太くんが悩みや不安も無く元気に登校出来る様に協力出来ればと思います。ただ、お家の事ですので介入出来ない部分もあるのでご了承下さい。』
『ありがとうございます。いっそ康太が父親に二度と会わないと言ってくれれば楽なのですが、あの子は優しいので気を遣っているんです。』
どんなに暴力を奮われようが父親を見捨てる事が出来ないというのだ。
『それで万が一自殺でも考えていたら取り返しが付きません。三学期になって登校してくれれば担任や学年主任の先生と相談してフォローしますが、不登校になるようだったら知香さんにお願いするしかないわね。』
年末年始、あんなに明るく振舞っていたこのみが自ら命を絶つなんて考えたくも無いけれど、昨日はそうなってもおかしく無い程の状態だった。
『分かりました。私ひとりじゃ無理ですが友だちにも協力して貰って毎日様子を伺いに行きます。……それと。』
知香が何か思いついた様だ。
『去年やった、特別授業を今年もやって戴けませんか?出来れば私も今の六年生たちにお話したいんです。』
山本先生は知香の意図に気付いた。
『分かりました。新学期になったらすぐ校長先生に相談してやれる様にします。』
話終わった後、4人は康太のアパートに向かった。
『今日も布団から出ない様なら私は何も言いません。白杉さんと八木さんにお任せします。』
最初から香奈子が出ていくとかえって刺激をしてしまう危険もあるので昨日と同じ様に知香と萌絵で説得をした方が良いと判断した。
康太は布団を被ったままだ。
『こうちゃん、来たよ。』
『…………。』
『ごめんね。私、こうちゃんの心の奥までは分からないんだ。でもさ、お互いの悩みを共有する事は出来ると思う。だから、なんでも良いから話してくれないかな?』
『…………。』
まだ布団の中で黙った状態を変えずに暫く布団に潜った康太を見詰めて言った。
『私も萌絵も、みんなこうちゃんの味方だよ。』
結局、康太は布団を被ったまま出て来なかった。
『本当に申し訳ございません。明日から私も仕事が始まるので見ている事が出来ないのですが。』
『こうちゃんはもともと明るい子だから諦めません。明日も明後日も伺います。』
学校が始まると生徒会の仕事等で毎日行くのは困難なので知香は友だちに協力を仰いだ。
康太の事はクリスマスパーティーでみんな知っているので知香の要請に応えたいと言ってくれたので、毎日放課後誰かしらが様子を伺いに行く事になった。
『私なんか暫く誰も来なかったけどね。』
『チカって引き篭もりながら勉強してたんでしょ?あんたは放っといても死ぬとか言わないから大丈夫よ。』
本当は学校を休み始めた頃は死にたいとも思った事もあったが、女の子になりたい気持ちの方が強かったので前を向く事が出来たのである。
この先どんな形であっても康太には最悪の選択をさせてはならないので自分の過去はどうでも良かった。
『私も遅くなっても学校の帰りに必ず行くから。』
新学期は1月8日の水曜日が始業式である。
この日は午前中で下校なので、そのまま青葉台小に向かい、康太が学校に来たかの確認と特別授業についても聞きにきた。
事務室で山本先生を呼んで貰うと、山本先生と康太の担任の金子深雪先生がやって来た。
『こんにちは、白杉です。』
『金子です。在学中にすれ違ったりしたけれどこうしてお話するのは初めてですね。宜しくお願いします。』
金子先生は母の由美子と同じくらいの年齢だろうか、中堅クラスの先生の様である。
3人が応接室に入ると既にもう一人、6年の学年主任の森山先生が資料を見ていた。
森山先生は40歳過ぎの男性教師だ。
『森山です。話は聞きました。昨年の特別授業の資料も井沼先生からお借りして調べましたし、白杉さんの事も山本先生からいろいろ聞きました。』
(山本先生はどこまで話をしたんだろう?)
『白杉さんと上田とは状況が違う感じだけれど、その辺はどうするのかな?少なくとも今日は休んでいる様だしこのまま不登校になった場合本人抜きでやる意味はあるのかどうか?』
知香の時は知香が学校に通い始めて自分から話をしたのだが康太がこのまま不登校になる可能性は高い。
『上田くんはおとうさんから否定されて望みを無くしています。出来れば、クラスのみんな……全員で無く一人でも二人でも理解してくれる友だちが居れば前を向く事が出来ると思います。その為に特別授業で私や上田くんの様な子が近くに居ると知って欲しいんです。』
特別授業は金曜日の午後に行なわれる事と決まった。




