二年目の春
新年を迎えて子どもたちは1時位まで起きて床に付いた。
もう去年の初夢の様な悪夢は見る事が無くなったが、代わりに手術台に向かっていく夢とか手術が失敗した夢を見る事があり不安はあった。
(良い初夢見たいな……)
ステンドグラスから暖かな陽が射し込む白い壁の吹き抜けの建物。
(教会?)
知香はウェディングドレスを身に纏っていた。
(綺麗……。)
ブーケを手に裾を踏まない様に赤いカーペットを歩いて行くと、祭壇の前に一人、知香を待ち構えているのだが、それが男性か女性か分からない。
『誰?』
足早に進もうとするが、一向に前に進む事が出来ない。
『ねぇ、誰なの?あなたはいったい……。』
そこで目が醒めた。
去年の事を考えたら全然良いのだが何か腑に落ちない。
隣には萌絵がまだ寝息を立てているが、萌絵には言えないと思う。
(可愛い寝顔。)
このまま萌絵とずっと一緒に居るか、あるいは別の誰か、それも男か女のどちらが将来のパートナーになるだろう?
それとも死ぬまで一人かもしれないが、今はそこまで考える余裕は無く、手術をして戸籍の変更が目標なのだ。
考えているうちに康太が起きた。
寝る時はウィッグを外しているので、早めに起きてなるべく他の人に見られない様にウィッグをかぶり、このみになった。
『知香さん、おは……明けましておめでとうございます。』
このみは前の晩年が明ける前に寝てしまっていた。
『こうちゃん、明けましておめでとうございます。』
はずみと萌絵も起き上がった。
『おはよう、チカ。初夢見た?』
はずみの隣で萌絵も聞いている。
『なんだかよく覚えて無い……。』
二人には誤魔化したが、相手が誰だか気になって仕方が無い。
(でもウェディングドレス、綺麗だったな。いつか着れるかな?)
布団を片付け、顔を洗って大広間に向かう。
『おはようございます。』
『おはよう。』
大人たちは何時まで起きていたか分からないが既に起きていた。
『明けましておめでとうございます。』
唯一新年の挨拶をしていないこのみが大人たちに挨拶をする。
『おめでとう、このみちゃん。このみちゃんも今年は中学生ね。』
由美子が挨拶を返すがこのみとして中学校に通う見通しは無いと気付き、少し重い空気になる。
『ま、とりあえずお雑煮食べましょう。』
佐知子が空気を和らげてくれた。
お雑煮を食べ終わると一郎たちがやって来た。
これからみんなで善光寺に初詣に行くのだ。
『去年、十三参りもしたし、お礼も言わなきゃね。』
はずみたちは初めての善光寺参りとなる。
『そっち8人も乗ったらキツくない?誰か一人くらいこっちに乗れば?』
一郎の母・瑞希が俊之に聞いている。
俊之の車は8人乗りであるが定員いっぱいで余裕が無いのだが、これは大人たちの作戦だった。
『そうだなぁ、悪いけど松嶋さん、一郎の方に行ってくれないか?』
『え?私?!』
まさか自分が一郎と一郎の両親に囲まれてしまうとは思わず素っ頓狂な声を上げた。
『そりゃ、はずみんしか居ないよ。』
『はずみちゃん、頑張って!』
何を頑張るのか意味が分からないが知香と由美子母娘に囃し立てられ、はずみは一郎の車に移った。
『これって最初から考えてたの?』
知香が由美子に尋ねる。
『そうよ、みんな寝てから話し合ったの。今頃いろいろ質問責めにあっているでしょうね。』
『ホントにお前ら悪趣味だな……。』
生真面目な父・博之が呆れて言った。
知香の性格は母譲りの様である。
駐車場に車を停めるのに時間が掛かったが無事善光寺に到着し、参拝客の列に並んだ。
『かなり掛かりそうだね。』
晴れているとはいえ長い時間並んでいると身体が冷える。
二時間掛かってようやく最前列までやって来た。
(昨年はありがとうございました。今年も目標に向かってみんなと仲良く過ごせます様に。)
参拝はほんの僅かで終わった。
『おみくじ引こうよ。そうだ、はずみん、去年大吉じゃなかったっけ?』
去年は地元の神社に雪奈とはずみの3人で参拝に行き、やはりおみくじを引いて知香の末吉に対してはずみは大吉だった。
『よく覚えているなぁ。』
『でも当たったんじゃない?』
何を言っても冷やかしが返ってくる様だ。
『俺も引いてみよう。』
一郎は凶だった。
『げ!』
『いっちゃん、凶って悪くないんだよ。気を緩めない様に気を付けなさいって意味だって。』
『そう、善光寺は凶が多いとも言われているから別に落ち込む事は無いよ。』
博之が知香を補足して言った。
『私は吉だ。』
(去年は末吉だったから良しとしよう。)
徐々に上がっていけば言う事は無い。
まだ女の子二年目が始まったばかりである。
目標に向かって頑張ろうと決意する知香であった。




