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中学生から始める女の子生活  作者: Ichiko
中学一年生編
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知香の誕生日

一郎も冬休みとなり、知香たちは毎日スキーを楽しんでいた。


年の瀬、30日となって知香の両親も帰省する日となり、知香は長野駅に萌絵とこのみを連れて迎えに行く。


一郎とはずみはわざと二人だけにさせてあげたのだ。


『もう今年のスキー終わっちゃった。』


まだ滑り足りないという感じで知香は嘆く。


祖父の顔でスキー場に出入りしている身なのでイベントの時や混雑時は行かれない。


『ホントに好きなんですね。』


このみも萌絵も呆れるしかなかった。


3人は一郎がゴールデンウィークの時に出迎えた時と同じように私鉄駅の改札前で待っていた。


『あ、おとうさんたちだ。』


『こんにちは。』


萌絵とこのみは丁寧に挨拶をする。


『こんにちは。二人とも、知香がスキーばかで大変だったでしょ?』


由美子もちゃんと分かっていた。


『あら、松嶋さんは来てないの?』


『はずみん、いっちゃんとラブラブだから置いてきた。』


『へぇー?一郎くんがねぇ。後で弄る楽しみが出来たわ。』


『よしなさい、子供たちの前で。』


父の博之は超が付くほど生真面目なので由美子が暴走するのをいつも見張っている。


五人が電車に乗って祖父の待つS駅に行き、車で民宿に戻ると一郎とはずみが大掃除を手伝っていた。


『お帰り、チカ。』


はずみは若奥さんの様に手拭いを姉さん被りにして割烹着を着ていた。


『なんだ?お客さんにそんな事やらせて!』


祖父の俊之が祖母の佐知子に怒鳴った。


『いえね、二人だけだと場が持たないって手伝ってくれたのよ。』


二人とも不器用な恋愛初心者らしいと知香は思った。


『それにしてもはずみん、似合ってるねぇ。いつ嫁入りしても大丈夫じゃない?』


『冷やかさないでよ!』


由美子が弄るまでもなかった様だ。



その晩は賑やかに食事をして、31日の大みそかを迎えた。


朝ごはんが終わると、正月を迎える準備だ。


おせち料理を作る傍ら、蒸籠でもち米を蒸して蒸し上がったら臼に入れ杵で搗く。


『去年はリッキーがほとんど一人でやっていたから楽だったんだけど。』


怪力のリカルドなら一人でも平気だろうが、今年は居ないので祖父の俊之、父の博之と一郎の父高志の三人が交代でやらねばならない。


子供用の小さな杵と臼も用意して知香たちも搗いたが、一郎は初めて大きい杵を持った。


『はずみちゃんの前だからとってい良い恰好すると怪我するぞ。』


『大丈夫だよ、このくらい。』


そう言って一郎が杵を持ち上げると足元がふら付いてバランスを保てない。


『だから無理するなって言ってるのに。』


はずみにも呆れられ、一郎は結局子供用の小さい杵で搗く事になった。


搗きあがった餅は鏡餅にする分と昼に食べる分、お雑煮用の分と分けた。


お昼に出された餅にはペースト状になった餡がかかっている。


『これは何ですか?』


はずみが佐知子に尋ねる。


『これはクルミよ。細かく砕いてすり鉢で擂ったものをお湯で溶かしたの。明日のお雑煮はお持ちの中に粒のクルミを入れるからね。』


クルミのペーストは砂糖を加えて甘くなっていて女子中学生が好きそうな味だ。


『美味し~い。』


『きな粉も良いけどこっちもつぶつぶして良いね。』


『そういえば今頃きな子何しているかな?』


ひょんな事で友人を思い出す知香たちだった。



年越しの蕎麦は一郎の父、高志が毎年打っている。


以前新蕎麦の粉を貰ったのがきっかけで蕎麦打ちをやる様になったという事で、知香たちは小さい頃から高志の蕎麦に馴染んでいた。


『だいぶ腕が上がったな。これなら店を出せるぞ。』


義父である俊之からもお墨付きを貰っている様だ。


『お蕎麦ってこんなに美味しかったっけ?』


普段あまり蕎麦を食べない子どもたちにも好評だった。


その後はみんなで年末恒例の国民的音楽番組を見ていたが、僅か一年の差が大きいのか、本当は裏のバラエティー番組を見たかったのかは分からないが小学生のこのみは11時頃に寝てしまった。


しかし、はずみも萌絵も一郎も頑張ってテレビを見ているので知香も先に寝る訳にはいかない。


音楽番組が終わり、全国の寺社からの様子をリレーする年越し番組が始まると厳かな雰囲気ながらいよいよ年が明けるという独特な高揚感で目が醒め、カウントダウンが始まる。


『さん、にぃ、いち……。』


テレビではお寺の鐘が鳴り、何処かで新年を祝う花火が上がるシーンを映していた。


『明けましておめでとうございます。』


テレビと共に知香が新年の挨拶をすると、


『知香、誕生日おめでとう!』


と声を合わせてみんなが知香を祝った。


『えっ?何、私誕生日じゃないよ!』


知香の誕生日は5月22日である。


『何言ってんのよ、去年の今日の事忘れたの?』


はずみが言った。


(そうだ、去年の元旦の日にはずみと雪菜の助けを得て由美子にカミングアウトしたのが知香の始まりだった。)


『去年の今頃はともちゃんが病気で来ないというからおじいちゃん大騒ぎしたんだから。』


佐知子が去年の顛末を暴露する。


『そ、そりゃあスキーばかのともが来なきゃ心配するだろ?』


本当はかなり心配してくれたであろう俊之の言い訳に知香は感激する。


『あの時はおとうさんも知らなかったから大変だったよ。』


父の博之も長野から帰った後にカミングアウトされたのだ。


『あの時はなんか勢いでチカのおかあさんに言っちゃったけど、結構重い感じだったよね。』


『もう私もパニクってたわよ。でも半分やっぱりって感じだったけど。』


去年の元旦に居合わせたはずみと由美子が続けて証言した。


『あの時のチカは物凄く真剣だったよね。学校にはちゃんと行くから女の子にならせて!って。』


『私はいつも真剣だよ。……でもおかあさん、はずみん、ありがとう。確かに去年のお正月、あの瞬間が私の女の子としての始まりだったと思う。』


女の子として生活を始めて一年、多くの人に支えられて来れた事に感謝しながら白杉知香の二年目がスタートした。




知香の2年目の出発と101回目が偶然にも重なってしまいました。

次の目標は200回です。

飽きられない様頑張りますので宜しくお願いします。

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