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第5話 小金井朔也⑤

どうしてこんなことになっているのだろう。


俺は楓と共に帰路を歩いていた。

それもただ歩いているというのではなく、楓に一方的に手を繋がれたまま。


かつては想いを馳せていたにも関わらず、胸は高まらない。

むしろ不快感さえも感じてしまうほど。

手を離そうと何度も試みるも、その度に結ばれた。

だけど、言葉で阻止しようとするほどに俺の心に勇気はなかった。


辺りは居酒屋で賑わってはいるが、俺たちの間に言葉はなかった。

ただただ静寂だけが横たわって動こうとしない。


(本当に楓、どうしたんだ??

俺と一緒に帰りたかったんじゃないのか?

それともあそこから俺同様離れるための口実・・・?

いや、でもそうならば、この手は何なんだ?)


俺はまだ結ばれている手を見つめる。

いつの間にか恋人繋ぎになっていたようで、彼女の指の柔らかい感触が伝わってくる。



そうして歩いている内に帰路はネオンの光煌めくラブホ街へと差し掛かる。


「な、なあ。みど・・・。楓さん」

御堂さんと呼ぼうとした俺に降ってきたのは、楓の苛ついた眼差しで

仕方なく、下の名前で呼んでしまう。


「うん。なぁに?小金井君」

楓はその呼び方に満足したのか、口角を上げている。


「あ、あのさ、ここってさ・・・。」


「あ~。ラブホ街ね。」


しどろもどろになってしまう俺を他所に、楓は現実を突き付けてくる。


「ら、ラブホって・・・」


「なによ。生娘じゃないんだからそんなおかしいことないと思うけど・・・。」


あのクラスの憧れだった楓の口からラブホという

単語が出てしまったことに驚きを隠せなかった。


(こんなの俺の知っている御堂楓じゃない・・・。)



「あ、あそこのホテルとかいいと思わない??」


しかし、御堂の攻撃が終わることはない。

クスクスと笑みを浮かべながら、ホテル街でひときわネオンの強いラブホを指差す。


「い、いいって・・・。な、なにが!?」


「何って。男と女がこんな場所で歩いているのよ。

することなんて一つに決まっているじゃない??さ、早く行きましょ♪」


楓は余程乗り気なのか、俺の腕を掴んでぐいぐいと進んでいく。



このまま楓の手を振りほどいて逃げることもできた。

男と女の力の差があれば、そんなことはいとも容易い事なのだろう。


だけど、元々好きだった子からの熱烈なアプローチが原因なのだろうか。

それとも、この手を振りほどいてしまえば、彼女はどうなるのだろうか。

そんな事を考えると、振り解くことはできなかった。



「はい。90分。502号室ね」

ホテルに着くや否や、楓は受付のおばあさんに時間を伝え、鍵を貰っていた。

その姿に妙に手馴れている感を感じながら、エレベーターで目的階まで上がる。


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