第4話 小金井朔也④
楓と再会してから1時間が経ち、会場には早々に酔っ払いが出始める頃。
おかしなことに気付いてしまった。
彼女は俺のことを見つけて以降、他の誰の下にも声をかけずに
一目散という表現がよく似合う感じで走り寄ってきた。
そして今で一時間くらい、ずっと彼女は俺の近くにいる。
その間、俺には人が話しかけてきて、そいつらと話すことはあったものの、
彼女は誰とも話そうとせずに逆に近寄ってきた同級生や友人などを
あしらう様な態度を取っていた
「あ、お酒が切れたっぽいな。」
「はい。これどうぞ」
そして極めつけはこれである。
近くにずっといるためなのか、俺のコップの中身が無くなりそうになったら
どこかからビールを注いだコープを持って渡してきてくれる。
というか、その間以外はずっと俺の隣にぴったり引っ付いていた。
こういった状況を見てなのか、変に察してくれたのか。
どんどんと俺に話しかけてきてくれる人も減っていき、
5分くらい前からは誰も俺たちに近寄ってこなくなってしまった。
というかどう見ても彼らは勘違いをしている気がする。
その視線はクラスメイト同士を見るものではなく、
恋仲か夫婦を見るものと同一なのだから。
俺としてはその勘違いも嬉しいところではあるが、それは真実ではない。
それに楓の評判も少し悪くなるのではないか。
そう思うと、どうにもこの同窓会が楽しめなくなってきてしまった。
「そろそろお暇しようかな」
俺の心は正直だった。
楽しくないと思い至った瞬間、俺は少し早いが帰ることを決意した。
これで楓も他の人に話しかけることだろう。
そんな一抹の希望を胸に抱えながら、司に帰る意思を伝えようとした。
しかし、なぜかそんな時でさえも楓は後ろからついてくる。
さっきの俺のつぶやきが聞こえていなかったのだろうか。
いや、でもあんな近くに立っていたのにそんな事ってあるのか
俺は悩みながらも歩を進める。
聞こえていなかったにしても、司に伝えた時にわかってくれるだろう。
「司。俺まだ少し早いけど帰らせてもらうなぁ」
司に帰る意思を伝えると、まるで作戦が成功したのかと言わんばかりの
嬉しそうな笑顔を浮かべながら、俺の隣を見据えながら口を開く。
「お、おお、良かったじゃないか!朔。
それじゃあ、後のことは頼んだよ。御堂さん。」
「えっ、御堂さん・・・。」
俺は完全にこのままお別れするのだと思っていた。
だからこそ、この展開には驚愕してしまう。
楓は何と自分も帰るところという雰囲気を漂わせながら、
俺の服の裾を掴んでいた。
「御堂さんも帰るん?」
俺はまさかと思いながらも楓に尋ねた。
するとなぜか楓はむすっとしていて、
やっぱり違ったんじゃないかとついつい司のことを睨んでしまう。
しかし、楓が怒っていたのはそういうことではなかったらしく・・・。
「御堂さんじゃないわ。楓って呼んで!!」
まさかの名前呼びを提案された俺はますます困惑してしまう。
(え・・・。俺と楓ってそんなにもフレンドリーな仲だったっけ。)