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黒鉄の旅人  作者: 狩咲
1/10

プロローグ

初投稿となります。つたない文だと思いますが、お暇つぶしにどうぞ。



11/13 20:16 プロローグを分けました。内容は変更しておりません 

11/13 23:49 表現や描写の順番、セリフ等を変更しました。話の大まかな内容は変更しておりません。

体が痛い。

だが弱音が吐けない。

どうしてこうなったか、思い起こすようにして痛みを堪えようとする。



始まりは、街道を歩いていた時に耳に届いた小さな音。

思わず立ち止まって音が鳴った方を向けば、ついさっき横を通った幌馬車。

馬車は木製、だからその木材が軋みをあげたのだろう、そう思って歩を進めた。

いや、正確には進めようと思ったがその足は再び止まった。

幌馬車の後輪を巻き込むようにして、街道が割れた。

二つの後輪が地割れに巻き込まれたものの、いい馬が引いていたのか馬車は傾くだけで済んだ。

しかし、その衝撃で乗っていた小さな女の子が馬車から転げ落ちた。

割れた街道の、その裂け目に。

俺は思わず、彼女を追いかけるようにその陥没した地面に飛び込み……どうにか空中で確保したが、俺は左腕を下にしてたたきつけられた。



「左腕一本がまともに動かない程度、というのは幸いか」

「? どうしたのお兄ちゃん」


思わずこぼした言葉と、それに対する声で過去へ馳せていた思いが現在に戻る。

割れた街道の下は遺跡だったようで、石のレンガと石畳で構築された通路が前後ろに伸びている。

壁にはぼんやりと光る小さな石がはめ込まれており、明かりがなくても進むには問題はない。

ただ、前と後、どちらに進めばこの遺跡を出れるのか、それがわからない。


「何でもない。足元に気をつけろ」

『そのまま前にまっすぐ進んで』


聞こえる声に感謝をしつつ、意識して細く、長く息を吐く。

額や頬を伝う汗は決してここが暑いからではない。

左腕に走る痛みが恨めしい。


「お兄ちゃん?」

「何でもない。こっちに進むぞ。俺の後についてきてくれ」


顔をしかめてしまったのを見られたか、不安そうにする少女に言葉を返す。

我ながら愛想いい回答ができないものかと思うが性分だ、許せ。


「わかった」


うなずく女の子を見てから通路の先を見据える。

遺跡には罠がつきものだ、ここにいるのは俺とこの女の子だけ。

もしも俺が罠に巻き込まれてしまえば、一人残されたこの子が無事に出れるかは怪しい。

細心の注意を払いつつ、一歩一歩進んでいく。

五十だか六十だか歩を進めれば、通路に違和感。

前の石畳のうち一部が、ほかの部分よりも僅かに盛り上がっているように見える。


「臆病な程でちょうどいい、ともいうからな」


言い訳をするように言葉を漏らしつつ、前方の宙に右手をかざす。

物体の召喚が行える魔法を行使し、前方の五歩ほど離れた場所の目の高さほどの位置にこぶし大の石を召喚する。

それが落下し石畳を叩いた途端、そこが崩れ落ちぽっかりと落とし穴が開く。


「二度も落ちるのは勘弁願いたいところだ」


嘆息しつつそんなことを呟けば、横から視線を感じてそちらを見る。

すると、目を輝かせた女の子がこっちを見ていた。


「お兄ちゃん魔法使い!?」

「一応な。もっとも聖剣だから出力は弱いが」

「聖剣?」


首をかしげてしまった女の子。

ここで説明をしても、とは思うのだがもしかしたらそれで女の子の気が紛れてくれるかもしれん。

少なくともここに落ちてからはずっと不安げな表情だった。

その表情が好奇心からとはいえ変わったのはいいことだろう。


「……魔法を人が使うには、聖剣か魔剣のどっちかと契約しなければならない。聖剣は契約すればその分野の魔法を使えるようになる。魔剣は聖剣で使えるようになる魔法よりも強力になるが、かわりに代償が必要だ」


知っているところだと、魔法を使用すると一定量の血液が自分の体から失われるというものがあった。

どのぐらい減るのかなどもわからないため、常に失血死の危険を孕む。

だが、そのような命を懸けた代償がある分、魔法の出力量は高い。

代償は剣や魔法により様々、軽いと思えるようなものもあれば、悲劇を抱えるようなものもある。


「じゃぁ私もそれを見つければ使えるの?」

「ああ。こういう遺跡においてあるほかにも人の手で作られているものもある。使うならばそっちがいいだろう。が、もう少し大きくなってからだな」


もっとも、俺は人の手で作られた聖剣や魔剣を使うことができない。

正確には、使うことはできるが最悪命を代償として使用することになる。

そのため身体強化などの定番とされる魔法を俺は使用できない。

俺が抱えた欠陥だが、その欠陥を抱える代わりに俺の命は助かった。

ならば今ここでこうやって生きている幸運に感謝すべきだろう。


「えー……」

「そう不満に思う気持ちはわかるが、本当に危険なんだ。さて、ちょっと抱えるぞ」


不服そうな女の子を抱え、落とし穴を飛び越える。

旅に出るために鍛えた体に感謝をしつつ、着地。


『あと少しで外だよ』

「さて、あと少しで外だ」

「なんでわかるの?」


ふむ、そう聞かれれば。


「勘だ」

「それでわかるのすごいね!」

『……頑張ったの私なのに』


女の子から向けられる視線のまっすぐさに居心地が悪くなりながら歩き続ける。

しばらく言葉もなく歩き続ければ、一本道の通路の先、出口が見える。

外の景色を背景に見えるは女の子の父親の姿。

思わず駆け出そうとする女の子の手を握りを引き留める。

気を抜いた時が一番危ない、ということを俺は知っている。

だから罠がないかと慎重に歩みを続け……遂に外に出る。


「お父さん!」


手を離せば女の子は父親へと駆け寄る。

安堵の表情と眼尻に涙を浮かべた父親は女の子を抱きとめる。

家族の姿を離れたところで眺めつつ、俺の家族であり今回の功労者に言葉を贈る。


「助かった」

『どういたしまして』


今は姿の見えないこの妹は、微笑んでいるのだろう。

そう思えば、俺にも自然と笑みが浮かんだ。


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