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第96話 「パピートレント」

 

「ふぁーおっきいお家」



 巨大な屋敷の門の前で思わず声を上げてしまった。


 グレンに連れられてやって来たのは、9週目通り。

 いわゆる『貴族通り』だ。



「ここに専門家の人が居るんだが……」



 グレンが勝手に門を開けて敷地に入る。



「わ、『ピンポーン』もしないで入れるなんて、随分と親しい仲なんですね!

 私だったら緊張して中に入れないです!」


「『ピンポーン』?

 まぁ、その人は『親しい仲』っていうより……僕の父だ」


「……はい?」



 敷地の中に居た庭師が、グレンを見つけると頭を下げた。



「お帰りなさいませ、お坊ちゃま」


「トーマスさんお疲れ様です。

 父は家に居ますか?」


「今は書斎でお仕事をなされているはずです」



『お金には困ってない』だとか言っていた理由がようやくわかった。

 本当にこの屋敷のお坊ちゃん……貴族なんだ。



「リッカ、こっちへ」


「は、はい」



 急にグレンが大人びて見えるようになった。

 さすが貴族、貴族だなぁ。


 屋敷の中に入り、客間に通される。



「ソファーに座って待っててくれ。父を呼んでくる」



 黒い革製のソファーに腰をかける。


 なんだかここは落ち着かない。

 広い空間があまり好きではないのだ。

 それになんだかこの部屋は、女神育成学校の校長室を思い出す。

 同じようにライン街を見渡せる窓が設置されていた。


 違う点といえば、ここにはアイメルト先生のような怖い人が居ないことだ。

 ……いまのところは。

 グレンのお父さんはどんな人だろうか。

 優しい人だといいんだけど……。


 扉が開き、最初に入って来たのはグレン。

 そして後から入って来た人物が、人目でグレンのお父さんだとわかった。

 グレンがそのまま年老いた感じだ。


 柔らかい瞳に手入れされた茶褐色の髭、僅かに伸びた髪はオールバックにして後ろでまとめられている。

 一目で優しい人だとわかった。お父さんって呼びたい。



「ランバート王の元で外交官を務めているカイル=トレントです」



 カイルが私の前に立ち、手を伸ばしてくる。

 すぐに握手を求めているんだと気づき、応じた。



「リッカです。よろしくお願いします」


「グレンが連れてくる客人はみんな男衆なもので、まさかお嬢様が来られるとは思わなかった。

 お茶の用意もしていなくて申し訳ない。紅茶でよろしいかな?」


「いやぁ『綺麗な』お嬢様だなんて……。

 紅茶大好きです!」



 メイドさんがやって来て、紅茶を淹れてくれる。

 善い香りの紅茶だ。きっと最高級の茶葉だろう。



「グレンも立ってないで座りなさい」


「え? あぁ、わかったよ」



 グレンが促されてカイルさんの隣に座る。



「グレン、リッカさんに失礼だろう。

 彼女の隣に座ってあげなさい」


「……父上?」



 グレンが不思議な顔をしながらも、私の隣に座った。

 カイルが紅茶を一口啜ってから口を開く。



「それで……二人はいつからお付き合いを?」


「……父上」


「冗談、冗談だ!」



 流行ってるのだろうかこの冗談は。

 ベンガルと初めて会った時にも、似たようなことをされた。



「こうやって前置きしておかないと、本当にそうだったとき失礼になっちゃうからな」



 カイルが楽しそうに笑う。



「アインちゃん、しばらく三人だけにしてください」



 カイルがメイドにそう声を掛けると、アインちゃんと呼ばれた人が頭を下げて部屋を出ていく。



「さて……、一応確認しておきましょう。

 リッカさん、あなたは『天空人』ですか?」


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