第92話 「ショッピング」
宿屋に荷物を置き、一番賑やかだと言われる一週目通りに来た。
一週目通りは、まず店の外見が個性的だ。
魔法で派手に装飾した建物や、なぜか傾いている建物、入口がどこだかわからない建物もあった。
歩いて見るだけで楽しい。
珍しく冒険者向けではない服屋を見つけ、意気揚々と入り込む。
天界では地味な羽衣一枚しか来たことが無かった。
もちろん、羽衣以外を着ても良い。
ただ、私はどうにも『想像』することが苦手で、かわいい服を着たことが無かった。
フリフリのかわいいワンピースに狙いを定め、『想像』出来るように観察する。
「リッカはこういう服が好きなのかい?」
「はい! めちゃ好きです!」
「へぇ、せっかくだから買っちゃえば?」
買う、買おうかなぁ……。
別に『想像』できるからお金をケチりたいわけではない。
今、私は『冒険者』なのだ。
冒険者はこんな服を着ないだろう。
「動きにくそうだから買わないです」
「……確かに動きにくそうだね。
じゃあ、あっちの方はどうかな?」
グレンが指さしたのは、向かいの店のショーケース。
女性冒険者向けのお店らしい。
一見、少しかわいらしい服だが内側に薄いプレートが仕込んであり、魔法にも物理的にも強い服だという。
「今の装備って魔法陣もプレートも入ってないよね?
今後の為に、あんなの買っておいた方が良いと思うよ」
グレンはどうやら私の防御面を気にしているらしい。
どうやら『S級』魔力を持つと知っても私を甘く見ているらしい。
「ふふん、グレンさん。
ちょっと短剣で私のポンチョを斬ってみてください」
「そんな、もったいないよ」
「いいからいいから」
私がポンチョをピンッと広げてグレンに向ける。
「さぁ!ひと思いに!」
「わ、わかった」
グレンが私のポンチョに短剣を突き立てた。
だが、短剣はポンチョに穴を開ける事はなく、逆に跳ね返された。
「もっと! もっと強く!」
「はい!」
何度突き立ててもポンチョは短剣を通さなかった。
グレンが観念して両手を上げる。
「私が創ったこれは、布のように見えて布じゃないんですよ。
『頑丈に』と思えば、布の域を超えて頑丈になるんです!
普通の布も創れますが、それじゃなんか勿体ないですからね」
「す、すごい。
もしかして僕の鎧も創ってもらえば、世界一頑丈になるんじゃ……」
「ふっへー! 高くつきますよ!」
高揚するグレンの後ろに、いつの間にか厳つい顔をしたおばさんが立っていることに気が付いた。
「あんたら……どこの店の回し者だい?」
「えっ? そんな人じゃ」
「じゃあ早く出てってくれ!
店の中で短剣振り回すわ、頑丈なポンチョを見せつけるわ!
お客さんが出てっちゃうじゃないか!」
「ひぃごめんなさい!」
怒鳴るおばさんから逃げて、店を飛び出す。
確かにあんな事をされたら堪ったもんじゃないだろう。
宿屋に戻ってからやればよかったと反省する。
「いやーやっちゃいましたねグレンさん」
「……もしかして、剣も創ってもらえれば最強なんじゃ」
「少しは反省してくださいよ……」
ブツブツと何かつぶやいているグレンと共に、改めて観光を再開した。




