第91話 「紙一重」
「おじさん!私冒険者だよほら!」
昼食を終え、会計の時に意気揚々と冒険者カードを取り出す。
「あぁ、ハイ。銅貨3枚割引で銀貨2枚でいいよ」
「……はい」
なんか思ってたのと違う。
半額くらいなると思ったら、端数を切り捨てただけに思える。
「まぁこんなもんさ。
冒険者の数も多いから、下手に割引を多くしちゃうとお店が潰れるからね」
グレンが私の気持ちを見透かしたかのように言った。
お店を出て、一息吐く。
「ギルドに戻るかい?」
「いえ、戻らないです」
冒険者ギルドは、想像していたようなところではなかった。
もっとにぎやかで、情報のやり取りを出来るところだと思っていたが……。
実際はもっと静粛とした所だった。
ライン街のギルドが特別なのかもしれない。
とにかく、アテは外れた。
「私、この世界のことをもっと知りたくて……。
どこか情報が集まるようなところはありませんか?」
「……知りたい情報によるね」
一度頭の中で情報を整理する。
私がこの世界に来て、見て、聞いたこと。
情報が一番足りないのは『魔王』について。
そして、私に今必要な情報は……。
「……天空人についてですね」
たぶん、天空人がこの世界において重大な存在だ。
特に気になるのが、女神との関係だ。
何らかの関係があると私は思う。
「君のほうが知ってるんじゃないのかな?」
「私、天空人さっぱり!」
天空人が天空人のことを聞くのはやっぱりおかしい。
でも、この際だからはっきりわからないと伝えよう。
「……まぁ、わかったよ。
その情報に関しては専門に扱ってる人が居るんだ」
「流石グレンさん! 顔が広いですねぇ」
「そんなことないよ、よく知ってる人さ。
でも、事前に話しておかないといけないことがあるから、その人に会うのは明日にしよう」
なんといっても、天空人のプロフェッショナルだ。
プロや天才はどこか頭がおかしいと相場が決まっている。
きっと、その人を怒らせないようにする注意事項でもあるのだろう。
「それじゃ、とりあえず宿に荷物を置いちゃいましょう」
「うん、そうだね」
グレンに案内されながら街を歩きはじめる。
場所は4週目通り。宿屋や料理屋が集中している。
「ナイーラ港みたいに『宿屋がいっぱい!』ってことはないんですか?」
「あの港は船を待つ為に長期で宿泊する人が多いからいっぱいになっちゃうんだ。
ライン街は宿屋の数も多いし、冒険者はすぐに島を出てくし、泊まる場合もギルドが多い。
長期で停まる商人たちも、自分の船や別荘があるから普通はそっちに泊まるね」
グレンの案内で辿り着いた宿屋は、縦に長い建物だった。
8階建てで、階ごとに外壁の色が違うカラフルな建物。
「……とっても目立つ建物ですね」
「こうでもしないとお客さんが寄ってこないんだろうね」
宿屋に入ろうとしたとき、あることを思い出した。
「そういえばグレンさん。
グレンさんのお家ってライン街にあるらしいじゃないですか?
宿じゃなくてそこに泊まれないんですか?」
「あー、それじゃ事前にお話が出来なくなっちゃうっていうか……」
グレンが苦笑いしながら答える。
「……はい?」
「その……とりあえず、今日は観光でもして時間を潰そう」
珍しく歯切れの悪いグレンと共に、宿屋に入った。




