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第85話 「モブじゃないのが恨めしい」

 

 グレンと共に、甲板の上で暖かい朝日を浴びながら遠くを眺める。



「あっ、きっとあれですね」


「……うん、あれだね」



 私は肉眼で、グレンは遠眼鏡でライン街が存在する島、『ライン島』を見つけた。

 確かに島なのだが、見た目は本当に街が海の上に浮いている感じだ。

 ついに、二日間の航海を終えてライン街へ辿り着く。



「よし、荷物を整理してからもう一回甲板に来よう。

 早めに並んでおけば、すぐに降りられる」


「はーい」



 狭い廊下を歩き、自室に戻る。

 結構この圧迫感が好きだったが、ついにお別れだ。

 私の荷物はすべて魔法庫に入れてあるから、忘れ物の心配はない。

 ベッドのシーツを綺麗に整えて完璧だ。


 グレンの部屋からは、ガチャガチャと鎧の音が聞こえる。

 部屋を覗いてみると、ちょうど鎧を着ようとしているところだった。



「あれ? 鎧着るほど物騒なところなんですか?」


「いや、そんなことは無いよ。

 この鎧、手で持つわけにはいかないからさ」


「グレンさん、それくらいなら私に任せてください!」



 グレンの鎧を魔法庫に入れていく。



「ありがとうリッカ。助かるよ」


「これぐらいお安い御用ですよ~!

 さぁ、早く行きましょう!」



 準備を終えたグレンを急かし、甲板へ向かった。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 甲板には、既に準備を終えたらしい乗客が何人かいた。

 この様子だと、早いうちに降りることが出来るだろう。


 さっきまで遠くに見えていたライン街は、もうはっきりと見えるくらいまで近づいていた。

 改めて見てみると、規則正しく建物が並んでいることが分かる。

 円状に建物が並んでおり、中心に行くにつれて土地が高くなっている。

 外からでも、島全部の建物が見えている。


 中央にはひと際大きな建物が見える。

 ……あれはお城だろうか?



「グレンさん、ライン街に王様がいるんですか?」


「いや、もういない。

 魔王の出現を機に、すべての国は一つに統一されたんだ。

 あのお城は今、冒険者ギルドになってる」



 つまり、今はこの世界に王様は一人だけということだ。

 たった一人で世界のトップだなんて、私だったらプレッシャーに耐え切れないなぁ。


 もうライン街の人が見えるくらいまで、船が近づいた。

 いつの間にか甲板には多くの乗客が居てぎゅうぎゅう詰めだ。

 船着き場が見えていよいよ到着だと思ったとき、船がゆっくりと停まった。



「……? どうして停まったんですか?」


「あぁ、他の船が乗客の乗り降りをしている時はここら辺で待つんだ。

 すぐに動き出すさ」



 だが、しばらく待っても一向に動き出さない。

 乗客たちが不満の声を上げる。

 私も美味しそうな料理を目の前でお預けにされている気分だ。


 グレンにもう一度話しかけようとしたところ、甲板に一人の船員が現れた。



「大変申し訳ありませんが、問題が発生しました。

 このままではライン街へ上陸することはできません。

 問題解決の為に、一度客室へお戻りください!」



 船員が頭を下げながらそう言った。

 乗客たちが不満を爆発させる。

 多くの人たちは、客室へ戻る気がないようだ。

 私たちも群衆の外側にいる為、戻ることが出来ない。



「降ろせ―!」「すぐ目の前じゃないか!」「俺は泳いでいくぞ!」



 乗客たちの批判に、船員は一つだけ反応した。



「泳いで行かれるのはご遠慮ください!

 最悪、殺されるかもしれません!」



 その一言に、乗客たちがざわめく。

 どうやら、船の故障などではないようだ。


 一人の乗客が、手を上げながらおずおずと質問した。



「『問題』って……なんですか?」



 船員が答えるのを躊躇っているように見える。


 まるで図書館で読んだミステリー小説のはじまり部分の様だ。

 船内で何か悪いことが起き、外に逃げられない乗客たちが引き起こすドラマ。

 私は少しだけこの状況を楽しんでいた。

 だが、船員の答えによって私がこの『ミステリー小説』の中心に居る事を知り、絶望した。



「船内に『天空人』が居るとの情報を得ました」


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