第85話 「モブじゃないのが恨めしい」
グレンと共に、甲板の上で暖かい朝日を浴びながら遠くを眺める。
「あっ、きっとあれですね」
「……うん、あれだね」
私は肉眼で、グレンは遠眼鏡でライン街が存在する島、『ライン島』を見つけた。
確かに島なのだが、見た目は本当に街が海の上に浮いている感じだ。
ついに、二日間の航海を終えてライン街へ辿り着く。
「よし、荷物を整理してからもう一回甲板に来よう。
早めに並んでおけば、すぐに降りられる」
「はーい」
狭い廊下を歩き、自室に戻る。
結構この圧迫感が好きだったが、ついにお別れだ。
私の荷物はすべて魔法庫に入れてあるから、忘れ物の心配はない。
ベッドのシーツを綺麗に整えて完璧だ。
グレンの部屋からは、ガチャガチャと鎧の音が聞こえる。
部屋を覗いてみると、ちょうど鎧を着ようとしているところだった。
「あれ? 鎧着るほど物騒なところなんですか?」
「いや、そんなことは無いよ。
この鎧、手で持つわけにはいかないからさ」
「グレンさん、それくらいなら私に任せてください!」
グレンの鎧を魔法庫に入れていく。
「ありがとうリッカ。助かるよ」
「これぐらいお安い御用ですよ~!
さぁ、早く行きましょう!」
準備を終えたグレンを急かし、甲板へ向かった。
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甲板には、既に準備を終えたらしい乗客が何人かいた。
この様子だと、早いうちに降りることが出来るだろう。
さっきまで遠くに見えていたライン街は、もうはっきりと見えるくらいまで近づいていた。
改めて見てみると、規則正しく建物が並んでいることが分かる。
円状に建物が並んでおり、中心に行くにつれて土地が高くなっている。
外からでも、島全部の建物が見えている。
中央にはひと際大きな建物が見える。
……あれはお城だろうか?
「グレンさん、ライン街に王様がいるんですか?」
「いや、もういない。
魔王の出現を機に、すべての国は一つに統一されたんだ。
あのお城は今、冒険者ギルドになってる」
つまり、今はこの世界に王様は一人だけということだ。
たった一人で世界のトップだなんて、私だったらプレッシャーに耐え切れないなぁ。
もうライン街の人が見えるくらいまで、船が近づいた。
いつの間にか甲板には多くの乗客が居てぎゅうぎゅう詰めだ。
船着き場が見えていよいよ到着だと思ったとき、船がゆっくりと停まった。
「……? どうして停まったんですか?」
「あぁ、他の船が乗客の乗り降りをしている時はここら辺で待つんだ。
すぐに動き出すさ」
だが、しばらく待っても一向に動き出さない。
乗客たちが不満の声を上げる。
私も美味しそうな料理を目の前でお預けにされている気分だ。
グレンにもう一度話しかけようとしたところ、甲板に一人の船員が現れた。
「大変申し訳ありませんが、問題が発生しました。
このままではライン街へ上陸することはできません。
問題解決の為に、一度客室へお戻りください!」
船員が頭を下げながらそう言った。
乗客たちが不満を爆発させる。
多くの人たちは、客室へ戻る気がないようだ。
私たちも群衆の外側にいる為、戻ることが出来ない。
「降ろせ―!」「すぐ目の前じゃないか!」「俺は泳いでいくぞ!」
乗客たちの批判に、船員は一つだけ反応した。
「泳いで行かれるのはご遠慮ください!
最悪、殺されるかもしれません!」
その一言に、乗客たちがざわめく。
どうやら、船の故障などではないようだ。
一人の乗客が、手を上げながらおずおずと質問した。
「『問題』って……なんですか?」
船員が答えるのを躊躇っているように見える。
まるで図書館で読んだミステリー小説のはじまり部分の様だ。
船内で何か悪いことが起き、外に逃げられない乗客たちが引き起こすドラマ。
私は少しだけこの状況を楽しんでいた。
だが、船員の答えによって私がこの『ミステリー小説』の中心に居る事を知り、絶望した。
「船内に『天空人』が居るとの情報を得ました」




