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第81話 「茶毛のモルモット」

 

 日差しが暖かい甲板で昼食を食べる。

 またしても『ケート』が出た。今度は生っぽい。

 何かに漬け込んであるらしく、味が染み込んでいる。

 噛まずにちゅるちゅると飲み込んだ。

 ちゃっちゃと食事を済ませ、まだ食事中のグレンを尻目に魔法陣を宙に描く。



「うん? 何か見せてくれるのかい?」



『集中されなくなる魔法』の魔法陣を描き上げ、歪む前に生成した魔法陣とすり替える。

 グレンは気付いていないようだ。



「いいですかーグレンさん。

 私のことをよーく見ていてくださいね」



 魔法陣に魔力を流し込み、魔法を発動させた。

 これで『集中されなく』なったはずだ。

 一体、どれほどの効果なのか検証しなくてはいけない。


 グレンは黙って私のことを見ている。

 試しに、右手を指さしながら動きまわしてみた。

 グレンの目は、私の右手を追って動く。

 残念ながら、見えなくなったというわけではないようだ。



「グレンさん?」


「うん?」



 ……声にも反応する。

 魔法の効果が少しも実感できない。

 何か別の作業に取り組んでいる人じゃないと効果が出ないのだろうか?



「……お姉さーん」


「はい? なんでしょうか?」


「お、お水をお願いします」



 試しに料理を運んでいたお姉さんに声を掛けてみたが、普通に反応する。

 あれぇおかしいな。魔法陣間違えて覚えたかな。



「グレンさん、ちょっとこれ持っててください」



 魔法庫から、魔法陣を鉛筆で描いた紙を取り出してグレンに渡す。

 これは魔導書を見ながら描いたので、間違っていることは無い。


 もう一枚白紙の紙を取り出し、記憶を頼りに魔法陣を描いた。

 紙に描いた魔法陣をグレンに見せつける。



「その魔法陣とこの魔法陣。

 どこか違うところはありますか?」



 グレンが私から紙を受け取り、二つの魔法陣をじっくりと見比べる。



「……同じだね。完璧に同じ」



 グレンから紙を受け取り、魔法陣に魔力を流し込んだ。

 魔法陣は正しい。これで魔法は完璧に発動したはずだ。



「どうですか!」


「……どうって、なにがだい?」



 やっぱりダメなようだ。なぜか魔法が発動しない。

 二枚の紙をテーブルの上に置いて、じっくりと見比べてみるが違いは見当たらない。



「お待たせしました~」



 腕を組んで考えていると、頼んだお水を持ったお姉さんがやって来た。



「わぁ、これ魔法陣ですよね!私も小さい頃は魔法使いになりたかったんですよ!

 どんな魔法なんですか?」



 お姉さんはそういいながら、水の入ったコップを『魔法陣が描かれた紙の上に置いた。』

 なんでご丁寧に紙の上に置いたのか訳が分からない。



「『集中されなくなる魔法』なんですけど、なぜか発動できなくて……。

 今、魔法陣に間違いがないか確認していました」



 コップの下からもう一枚の紙を引っ張り出して、お姉さんに見せる。



「えっ? あっ! ごめんなさい!

 下敷きにしちゃってましたか!? 本当にごめんなさい!」



 お姉さんが凄い勢いで謝りだす。

 気が付いていなかったのか、それならしょうがない。


 お姉さんからもらった水をちびちび飲みながら、一つの考えに至る。

 魔法は対象を指定しなくてはいけないものがある。

 例えば、私が覚えた『生き物の侵入を防ぐ結界を作る魔法』は、地面に魔法陣を生成することで発動できる。

 空間に生成するだけでは発動できないのだ。


『集中されなくなる魔法』も対象を指定した物にしか発動しないとしたら?

 私は最初、空間に魔法陣を生成した。

 つまり、この時対象は指定されていない。

 そして紙に描いて発動した魔法。

 これは『紙』が対象として指定されたと考えられる。


 それならば、お姉さんがコップをこの紙の上に置いたのも納得できる。

 僅かに濡れた紙を持ち上げ、魔法が発動していることを確認した。



「グレンさん! あそこになんか飛んでいます!」


「え? なになに?」



 未だにご飯を食べているグレンの注意を逸らした隙に、お皿の上に紙を置いてみる。



「あーあれね。

 『ケバンチョ』だよ。別名『海賊』。

 隙を見て船から何か持ってちゃう鳥なんだ」



 グレンが説明しながらお皿を突っつく。

 皿の上に乗った紙には少しも気が付いていない。

 しめしめ、成功だ。魔法は発動していた。


 グレンはフォークでお肉と紙を一緒に口元に運ぶ。

 口の中に入ってから、ようやく気が付いた。



「うぇ。リッカ見てこれ!

 紙が入ってた!しかもこんなに大きい!」


「グレンさんったらドジだなぁ。

 これさっきの紙じゃないですか!」


「あれ……おかしいな。

 あれぇ?なんで気付かなかったんだろう」



 魔法陣を確認してみると、陣が崩れてしまったというわけではないようだ。

『集中されなくなる』にも限度があるようだ。



「ありがとうございました」


「えぇ? なにがだい?」



 毎度、魔法の実験に付き合ってくれるグレンには頭が上がらない。

 今回も良い魔法を覚えられた。


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