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第75話 「死してなお輝く」

 

 乗船券に記載された番号と同じ番号が刻まれた扉を、長い廊下の奥で見つける。



「グレンさんありましたよ私の部屋!」


「あぁ、僕は向かいの部屋だ。

 最後の方で乗船券を手に入れたから、部屋が奥の方になったみたいだね」



 扉を開こうとして、一瞬手間取った。

 なぜか扉は狭い廊下の方に開く。



「あっ!すごいですよグレンさん!

 この扉、向かいの部屋と同時に開けばぶつかります!」


「……なんで嬉しそうなんだい」



 互いの扉を何度かぶつけて見せる。

 これは絶対に設計ミスだ。


 部屋を覗いてみると、壁にぴったりと固定された机と椅子。

 ベッドの側には、頑丈そうな窓が付いていた。

 最低限の物がそろっており、不満はない。

 だが、木で作られた壁が船の揺れに合わせてギシギシと音を立てる。

 慣れるまで時間がかかりそうだ。


 窓から海の景色を拝もうとするが、暗くて見えない。

 残念そうな顔の私と、扉の向こうから覗きこんだグレンが映る。



「甲板、出てみる?」


「出ます出ます!」



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 長い廊下に急な階段を、船の揺れに足を取られながら進む。

 やっとたどり着いた扉を開けると、冷たい海風が流れ込んできた。



「わぁー! なんも見えない!」



 満天の曇り空。一切ない明かり。

 初めて目にした大海原は、布団を頭から被った時のような光景だった。



「こんな天気の日はね、下に星があるんだ」



 グレンが訳の分からないことを言いながら手すりの下を指さす。

 しょうがないから覗いてみると、相変わらず暗くて何も見えない。



「真っ暗ですよ」


「えっ? いない?」



 グレンが慌てた様子で下をのぞき込む。



「おかしいな。『ケート』っていう光る魚が音に釣られてやってくるはずなんだが」


「……もしかして、あれですか?」



 少し離れた海面がキラキラと輝いている。



「そう!あれだよあれ!」



 グレンが腰の剣を鞘ごと持ち、大人げなく船の横腹を叩く。

 すると、離れたところに居た『ケート』が少しずつこちらに寄ってきた。

 はじめは一尾だけかと思っていたが、よく見てみると小魚の大群だ。

 グレンが音を立てる度にキラキラと光る。かわいい。



「『ケート』は音を、正確には振動をエネルギーにして生きる魚なんだ。

 だから、船なんかにはよく寄ってくる」



 振動で生きていけるなんて凄い生き物だ。

 毎日ご飯を食べなければいけない人間が馬鹿らしい。



「リッカ、『ケート』を見せたのには理由があるんだ」



 グレンが急に深刻そうな顔になる。

 あのキラキラに何の意味があったのか、考えても分からない。

 グレンの答えを身構えて待つ。



「この船の名物なんだ。『ケートのかき揚げ』が最高に美味い」


「先に生きてるところ見たら食べ辛いじゃないですかやだー!」


「……食べない?」


「食―べーまーす!今度は順番を逆にしてください!」



 グチグチ言いながらグレンと共に船の食堂へ向かった。

『ケート』はかき揚げにされてもなお輝き続けていた。


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