第65話 「まるっとお見通し」
「リッカ……リッカ!」
ぼやける意識の中、私を呼ぶ声で目が覚める。
場所はナイーラ港すぐ近くの草地。
少し寒いが、朝日が気持ちいい。
結局、昨晩は港街の宿屋に泊まるわけにもいかずに野宿だ。
「あぁ、よかった。やっと目覚めてくれた」
「ふぁあ、おはようございます。
どうしたんですか?」
もう少し微睡みを楽しんでいたかったのだが、グレンがやけに忙しい。
「結界を解いてほしい!
も、漏れる!」
どうやら『生き物の侵入を防ぐ結界』に阻まれて大変なことになりそうだったらしい。
魔法陣の一部をサッサと消すと、結界が消滅する。
グレンはそそくさと茂みの奥に消えた。
地上の生き物は皆、大変ですね。
朝食を済ませ、今後の予定について話し合う。
ライン街への船が出るのは明日の夜だ。
欲を言えば、港街に入って買い物をしたい。紅茶の葉とか。
だが、慎重に考えれば『大陸会』とやらの襲撃から免れる為に街の外で暇をつぶした方が良いだろう。
二人でとても悩んだ。
魔物のことを考えれば、街のほうが安全かもしれない。
『大陸会』のことはよくわからないし……。
そこで、魔法庫に捕らえたお爺さん本人に直接聞いてみることになった。
『生き物の侵入を防ぐ魔法』の魔法陣を、とても小さく地面に生成し発動する。
これで小さな牢獄の完成だ。
結界の中にお爺さんを開放する。
「……うわい!」
何かを怒鳴りながらお爺さんが解放される。
だが、すぐに回りの状況を判断できずに辺りを見回している。
「リッカ、老人の傷を見てくれ」
「痛そう!」
お爺さんの肩には、私のクロちゃんから放たれた魔法によって棘が刺さっている。
まだ血が流れ出ている。
「血が固まっていないんだ。
様子を見る限り、君の便利倉庫に入ると時が停止するみたいだね」
良かった。
お爺さんは、意味不明な空間で長時間過ごしたわけではないらしい。
お爺さんは閉じ込められているのを理解したらしく、ふんぞり返って地面に座った。
グレンが剣を抜いてお爺さんに近づく。
「いいか、老人。
この結界は、生き物は通さないが剣は通す。
心して質問に答えよ」
「えっええ!?
もっとお淑やかにいきましょうよ!」
私の提案にグレンが困った顔をする。
「リッカ、そう簡単にできるようなことじゃないんだ」
「まぁまぁ、ちょっといい考えがあるんですよ」
グレンをたしなめ、お爺さんの前に座る。
「お爺さん、おはようございます」
「……」
ムスッとした顔で何も答えない。
狙い通り、こちらの方が都合よい。
「グレンさん、お爺さんから聞きたいことは何ですか?」
「……仲間の数、僕たちについて知っていること、これからの計画とかかな」
「お爺さん、答えてくれますか?」
相変わらず、黙り込んで目も合わせてくれない。
「仲間の数は?」
「……」
「へぇへー、私たちについて知っていることは?」
「……」
「ふぅん、これからの計画は?」
「……」
グレンがしびれを切らしたのか、口をはさんでくる。
「リッカ、そんなんじゃいつまでたっても分からないよ」
「えへへ、もう分かりましたよ!
出払っていてナイーラ港にはもう『大陸会』の仲間はいないらしいです。
私たちについて知っていることは見た目の情報だけで、仲間に共有できていないらしいです。
私のことを『天空人』だと判断してから、突発的に襲ったらしいです。
つまり、今までもこれからも計画性無し!」
お爺さんが目に見えて動揺する。
「本当かい!? 驚いた……。
一体どうやってやったんだい?」
「スペシャルなパワーを使ったんですよ!」
私の問いかけに口は動かずとも、心は動く。
要は、テレパシーを使ってお爺さんの心を読んだのだ。
「さぁグレンさん、安心して街に行きましょう!」
「待って待ってリッカ、老人をまた便利倉庫に入れたあげてくれ」
忘れてた忘れてた。
まぁ、どうやら時間が経過することがないらしいので、少し(?)の間我慢してもらおう。
泣きそうなお爺さんに触れ、魔法庫に入れようとすると……。
触れない。
なぜかお爺さんに触れない。
「グレンさん、お爺さんに触れないです」
「リッカ、結界を消さないと」
あぁ、そうだった。
……魔法陣を消そうにも、同じく結界の中だった。
「グレンさん、魔法陣も消せないです。
お爺さんが閉じ込められちゃいました」
「……まぁ、魔力供給がなくなれば自然と結界は消えるだろうね。
もって3日かな」
我ながら良い考えの牢獄が出来たと思ったが、自由に開放することが出来ないのはいけ好かない。
今回は仕方がない。私たちがナイーラ港から出るまでここで大人しくしてもらおう。
食料を結界の中に投げ入れ、私たちは港街へ向かった。




