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第586話 「遠ざかる時」

 時々、横を通り抜ける閉ざされた両開き扉。今日はその奥からいくつもの話し声が聞こえる。マーカスが扉を押し開くと、話し声がピタリと止まった。圧迫した空気を感じながらマーカスを追い部屋の中に入る。薄暗い部屋の中、楕円形のテーブルに座ったオジサンたちが私を見ていた。



「……なぜ機械が?」


「僕が呼んだんです」



 奥に座っていたイナガキが立ち上がる。相変わらずの白衣姿だが、今日のはいつもより綺麗な白衣だ。



「彼女は今度の作戦に必要不可欠な存在です。彼女の意見が必要になるかと」


「信用できん!」



 張った声が響く。軍服を身にまとい、この世界では珍しい太った男だ。



「何が意見だ! 人間離れの動きをする機械風情に我々の何がわかる!」



 肯定の声が何人からか聞こえる。その一人一人の顔を見ることはできず、テーブルの中央に置かれた空っぽの花瓶だけを見ていた。私はなぜここに連れてこられたのだろう。おなかが痛くなってきた。



「まぁまぁ、ロブ。落ち着きなさい」



 私を擁護してくれるのはイナガキとマーカスだけかと思っていたが違うようだ。

 初老の女性がロブと呼ばれた太った男を窘める。



「様子を見るために最近は貴方の判断を尊重して発電所の破壊をしてもらっていた。メガミたちはアイアン部隊とも連携を取っているし単体でも作戦を遂行している。それに……」



 女性が間を置き、ロブを見据える。



「中で不自由なく過ごす貴方……いえ、私たちよりよっぽど外の世界を知っているわ」



 薄暗い部屋だが、はっきりとうなずく人たちが見えた。私を嫌いな人だけではない。イナガキとマーカス以外にも私のことを快く思ってくれている人たちがいる。



「さて、改めて僕が彼女を呼んだ理由を話すと、次の作戦には高度な作戦遂行能力を持つ部隊が2つ必要です。その役目をマーカス率いるアイアン部隊とリッカとグレンのメガミ部隊に担ってもらう」



 イナガキが言葉を止め、一度部屋の中を見渡す。反論がないことを確かめて手元のリモコンを操作すると、席についた人たちの前にホログラムが表示された。



「本日、アイアン部隊が強襲した発電所を解析することによって送電先を2か所に絞ることができた」



 ホログラムには全く同じ形の四角い建物が表示される。



「このどちらかがタイムマシンの発進施設だと考えられる。もう片方はダミー、もしくは別の施設。最近になって頻繁に繰り返されるEMPに似た未知の電磁波攻撃。あれはタイムマシンのテスト運用の影響だと判明。タイムマシンの準備はすでに整っており、テック社側は『何か』を待っている状況です。ダミーを襲撃したことがタイムマシン発進のきっかけにならない為に、発進施設とダミー両方の同時強襲が必要です」



 イナガキが口を閉じると、多くの質問が飛び交い始めた。



「夕飯が遠くなるやつだな」


「そうですね……」



 扉の前に立ったままのマーカスと二人ぼやいた。


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