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第585話 「飽食」

 ノーフォック基地から下の街をのぞき込む。仮想の太陽が沈みかけ、オレンジ色に染まったビル街は家路の人であふれていた。郊外のアパートにある小さな空き地には子供たちが集まりボールを蹴っている。機械との戦争を反対する人たちがいる理由もなんとなくわかる。たとえ先が短くとも、今この景色が消えてしまうのは恐ろしい。

 突然、廊下にアラーム音が鳴り響く。外とつながる防壁扉が開いたということだ。赤い警告灯が点灯していないということは、意図的に開けられたということだ。きっとアイアン部隊が帰ってきたのだろう。

 早足で防壁扉へ続く廊下を歩く。この時間ならマーカス達がメンテナンスをしてシャワーを浴びても夕飯に間に合う。街で何を食べるか考えていると、やけに廊下を歩く人が多いことに気が付いた。胸騒ぎを覚え、歩幅を広げる。

 機械が侵入してくることはあり得ない。考えられるのはアイアン部隊の誰かが負傷したことだ。不安になり、同じ方向へ歩く人に声をかけてみる。



「あのっ、なんかあったんですか?」


「あ、えーっと……はい」



 固形四号を渡された。



「いや違くて」


「わかった。なら特別にこっちをあげよう」



 食堂で稀に配られる甘いクッキーだ。受け取っておこう。



「じゃあ急いでるから」



 そういうと近くの部屋に入っていった。嬉しいが情報は得られなかった。次の人に聞こうと辺りを見回すと、ほとんどの人が私から目を逸らした。その中に、私が歩いてきた方向に立っているシーラとエリックも含まれていた。



「シーラちゃんとエリックさん! おかえりなさい!」



 私が駆け寄ると、シーラは気まずそうに手を上げ、エリックは不自然に街を見下ろした。



「どうしたんですか二人とも……? というか、すれ違ってたんですね声掛けてくださいよー!」


「いや、忙しそうだなって思って……」


「別に忙しくなかったですよ? アイアン部隊の皆さんを迎えに行こうと思って」



 クッキーの包装を破り、丸まる一枚を口に入れる。しつこいくらいの甘さが良い。



「そうだったんだ。てっきり道行く人から食べ物をたかってるのかと」


「えっ!? そんな風に見えてたんですか! 違います! 誤解ですからね!」



 廊下を歩く人にも聞こえるように声を張り上げる。変な印象が付いてしまえば食べ物をくれる人が少なくなってしまう。



「やけに人通りが多いのでアイアン部隊に何かあったのかと思ったんですよ!」


「あぁ、それはだな」



 食べ物を取られないことに安心したのか、エリックが視線を街から私へ移す。



「ミーティングがあるからだ。お前は時間通りに夕飯を食べられない人から食料を取ったということだ」


「固形四号は返したのでセーフです! ……定期ミーティングはつい最近やりましたよね?」


「緊急のミーティングだ」



 突然、マーカスの声が響く。慌ててシーラとエリックが敬礼をし、つられて私も右手を上げる。



「リッカ、暇だな?」


「暇ですけど……。え、嫌ですよ?」


「ミーティングに参加してくれ。リッカの意見が必要になるとイナガキからの要望だ」


「ポンコツなんですから必要ないですー! 固い雰囲気の部屋にずっと居たくない!」



「ほら行くぞ」と軽く腕を引っ張られ、渋々歩き始める。私の意見が必要になるなんて相当追い込まれているのだろう。グレンたちが先に夕飯を食べてしまわないことを祈りながらマーカスの後を追った。


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