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第582話 「磨き抜く」

夢幻むげん』と『想像』した武器を比較したとき、はっきり言って夢幻のほうが弱い。切れ味は悪いし、目の模様が気持ち悪い。本来の形状が大鎌というのも気に入らない。


 私の接近に気が付いたSタイプが上半身を駆動させ、機関銃の照準を合わせようとしていた。このまま一直線に突っ込めば銃弾の餌食となり、痛い思いをするだろう。

 腕をしならせ、手に持った夢幻をSタイプへ向けて鋭く投擲する。甲高い金属音が響くが刺さっていない。わずかに傷をつけた程度だ。


 機械相手だとなおさら役に立たない夢幻。それでも使い続けるのには理由があった。


 地面に落ちかけた夢幻が一瞬、震える。短剣の形状は崩れ、細く長く、変化した。鎖状になった夢幻は「言った通り」Sタイプの体へ巻き付いた。照準を合わせられなかったSタイプは、明後日の方向へ機関銃を乱射する。


 戦いを通して夢幻は形状の変化が優秀なこと。そして単純な「お願い」なら聞いてくれることに気が付いた。少し気持ち悪い。


 Sタイプの足元へ滑り込みながら鎖を引っ張り夢幻を回収。想像した短剣で機関部を一突きし、空いた穴に夢幻を突っ込む。「大きな四角」とか「星形」とか「うさぎさん」と念じると、夢幻がその通りに形状を変化させ、Sタイプの中で暴れる。

 頃合いを見て足元から這い出ると、Sタイプは黒い煙を上げ停止していた。念のため頭を刎ねておく。



「グレンさんー! そっちはどうですかー?」



 グレンが向かった方向へ声を投げる。ガチャガチャと音が聞こえた後、「破壊したー!」と返事が返ってきた。

 耳に取り付けた通信機をコツコツと叩き、小さく咳払いをする。



「えーっと、こんにちはメガミ隊です! 発電所の確保を完了しました! こーぴー」


「了解。解析隊を送る。到着まで周囲の警戒を」


「こーぴー!」



 武器を魔法庫へ入れ、小さく背伸びをしながら発電所を眺める。

 機械が使い、機械が管理する建物だ。人間が作った建物とは違い、入口は見当たらないし看板や標識もない。一体どうやって発電をしているかもわからない。

 建物の影からグレンが顔を出す。剣はまだ鞘に収まっておらず、油断なく辺りを警戒しているようだ。



「何も来ないと思いますよ。しっかりと通信をされる前に破壊できましたし」


「……そうだね」



 剣を鞘に納めると、小さく息を吐きながら破壊されたSタイプに腰を下ろした。



「少しずつ慣れてきたけど、やっぱり僕は奇襲に向いてないよ」


「またまたー」



 この半月、私とグレンは何度も発電所を襲撃した。その度に解析隊が訪れ、テック社の動向を探る。

 機械たちは今までの敵よりも手ごわく、数も多い。迂闊に魔王だけを狙えば返り討ちに合ってしまうだろう。

 この世界の人間と協力しながら、少しずつ力を蓄える。そんな時間も必要だろう。

 魔王の気配を感じる方を見据える。灰色の世界の向こう側は何があるかまだ分からない。


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