第566話 「ブリーフィング」
「シーラちゃんとウィルさん……ウィルさん!? 足が取れてる!」
ウィルの片足が簡易的な義足になっており,もう片方は何もない。
「あぁ取れちゃったよ。不便で仕方ない」
ウィルはそういうと不満そうに松葉杖で床を突っついた。
不審な足音だと思って理由は,松葉杖の音が混じっていたかららしい。
「いやぁグレン,グレンかぁ」
ウィルはトントンと器用に跳ねながらグレンの側に寄る。
「マジで助かったよ。リッカもだけど君たちが居なかったら恋人に別れを告げる前に死んでいた」
「アンタ恋人なんていないでしょ」
「……あー,まぁな」
椅子に座ると気怠そうにテーブルへ身体を投げ出した。
「久々に松葉杖なんて使ったから疲れたぁ」
「えーっと,なんたら攻撃で足が使えなくなっちゃったんでしたっけ。
エリックさんも大変そうでしたけど……」
シーラが固形三号を二本持って隣に座る。
「ウィルは両足がダメになって修理中。神経接続部が焼き切れたらしいから組織の再生に時間がかかる。
エリックは三半規管までやられて治療中。一番重症ね」
ウィルが固形三号に齧り付くと大きく咽る。
水を求めるように両手が動き,私のティーカップを探り当てた。
飲みかけのカップに口を付けようとした時,金属の手がウィルの手を抑えた。
グレンがティーカップを取り上げると,いつの間にか持ってきていた水をウィルに差し出す。
「……あー,シーラちゃんは大丈夫なんですか?」
「私の片目は本物だから。
義眼は視神経の接続が厄介だからすぐには使えないんだけど,戦うことは出来る。
いいよねぇ隊長の義手は。旧式だから電気系統がほとんどなくて取り替えなくていいんだってさ」
そういえば射撃場で会った時,マーカスは問題なく腕を扱っていた。
シーラ達にも同じものを使えば良いのにと思ったが,できない事情があるのだろう。
どういう流れなのかわからないが,隣の席でグレンとウィルが腕相撲を始めていた。
「一番厄介なのが,このEMP攻撃みたいなのされるとレールガン機能が使えなくなることなんだよね。
基地内にあった銃は無事なんだけど,私たちが使ってたのは廃棄処分だってさ」
「レールガン機能が使えないってなると,ほとんど対抗手段がなくなるんじゃ……」
突然,隣で椅子がひっくり返る。
腕相撲の衝撃でウィルの身体が床に放り投げられたらしい。
「……だから,もしもの時はリッカとグレン頼りになるってワケ」
シーラがウィルを支え,松葉杖を握らせる。
「じゃ。私たちはイガラシのところに行かないといけないから」
「グレンいいか,足があったら俺が勝ってたからな!」
ひらひらと手を振るグレンと共に,食堂を出ていく二人を見守る。
「……どういう流れで腕相撲になったんですか?」
「わからない。適当に頷いていたらああなった」
グレンが最後のひとかけらを口に放り込む。
「私たちも部屋に帰りますか」
「そうだね」
テーブルの上の散らかったものを片付け,食堂を後にした。




