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第556話 「郷の歩き方」

 あっという間の出来事だった。

 私たちの前に現れたグレンが3体のSタイプを苦戦することなく破壊する。



「大丈夫かい?」



 そして,初めて出会った時と同じように手を差し伸べていた。

 ……機械の腕を。

 その手を取り,立ち上がる。



「良かった……です」



 たくさんの思いが押し寄せる。

 一番の思いはこうして再び出会えたことだった。



「手術が成功して……生きててくれてよかったです……」



 私は科学の力だと勘違いするだろう魔法をイナガキに見せた。

 そしてその対価にグレンの治療をお願いした。

 ギリギリの,いや間違った判断かもしれない。

 だが,こうしてグレンは私の前に立ってくれている。



「僕はそんなに大変な状態だったのかい?」


「もう……滅茶苦茶のぐちゃぐちゃだったんですから!」


「それは大変だ」



 涙が零れるのは抑えたが,声の震えまでは止められない。

 誤魔化す為にむりやり笑顔を作る。



「そ,そういえば私たち今,大変な状況なんですよ。

 発信機が付けられててプライバシーが侵害されてるです!」


「……よくわからないけど,ここに来る前に色々持たされたよ」



 グレンが腰のポーチを開き,中身を取り出す。

 マーカスが使っていたのと同じ通信機と,長方形の何かだ。



「それだ。それが欲しかった」



 今までシーラと共に成り行きを見守っていたマーカスがそれを取る。

 長方形の片側からワイヤーを取り出し,もう片側につなげる。

 輪っかが出来上がると,目に見えるほど放電を始めた。

 マーカスは怯むことなく輪っかを頭から身体に通す。



「これでナノマシンは除去できた。次はリッカだ」


「は,はい!」



 受け取った輪っかをマーカスと同じように通す。

 毛先の一本一本までビリビリとした。

 足まで通してからシーラに渡す。



「色々話したいことがあるが,まずは移動だ。

 別の地点に迎えが来る」



 マーカスがすれ違いざま,グレンの背中をバシバシと叩く。



「助かった。感謝する」



 グレンが驚きながら小さく何度か頷いた。


 マーカスを先頭に灰色の街を歩く。

 テック社はSタイプが3体いれば十分だと思っていたのだろう。

 他の敵影は見当たらなかった。


 前を歩くグレンは用心深く剣を構えていたが,この世界ではあまりにも不似合いな光景だ。

 だが,その背中は誰よりも心強い。



「リッカ,その人……? どうして剣なの?」



 最後尾のシーラが当然な質問を投げかける。



「えーっと,グレンさんは生まれてこの方,剣しか握ったことがないんですよ」


「め,珍しいタイプ……だよね。名前はグレン?

 さっきは助かった。私はシーラ,生まれてこの方レールライフルしか握ったことがないわ」



 シーラがグレンの背中に向けて声をかける。

 ……聞こえない距離ではないはずなのに反応がない。



「グレンさん?」


「……その人,もしかして僕に話しかけてたかい?」



 申し訳なさそうな顔をしたグレンが振り返る。



「リッカ,実は君以外の人が何を言っているのか全く分からないんだ」


「えっ……? あぁ! ……えっ? ……えぇ!?」



 グレンの陥っている状況にやっと気が付いた。


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