第534話 「初動」
ショットガン,アサルトライフルにスナイパーライフル。
様々な銃を使ってみたが,やはり拳銃が一番だ。
どの銃も仕組みが難しい分,咄嗟の対応が遅れる。
その時に一番頼りになるのは空いた手に持つ短剣だ。
左手に拳銃を,右手に短剣を持ち構える。
両手で銃を保持できない分,精度は落ちるだろうが関係ない。
拳銃はあくまでも補助,戦闘の主軸は短剣にする。
左ひじに短剣を持った右手首を固定し,引き金を引く。
数発撃ってから左腕を折りたたみ,短剣を鋭く構える。
何度か繰り返すうちに『それっぽく』なってきた。
もう少し頑張れば『想像』で戦闘力を補完できるだろう。
最後の薬莢がはじき出されたのを確認してから,手探りでカウンターの上の弾倉を探す……が,なかった。
良い流れが来ていた気がするが,止まってしまった。
小さく溜息を吐きながらカウンターのスイッチを操作する。
「……あれ?」
先ほどまではこれでボロボロと弾倉が出て来たのに,今はうんともすんともいわない。
スイッチの押す力が弱いのかと思い,ぐいぐいと押し込む。
すると,一瞬だけ射撃場の照明が落ちた。
冷たい汗が背中を伝う。
危なかった。照明が落ちたのは私のせいかもしれないが,また点いたからセーフ。
「リッカ?」
「ひゃい!?」
離れたところでガンテストをしていたイナガキが,いつの間にか後ろに居た。
「あ,へへえへへうへ?」
「……うん?
ちょっと呼び出されたから上に行くね。
君はここで好きにしていていいよ。
昼食を食べたらメンテナンス部に来てくれ」
イナガキがタブレットをヒラヒラと見せる。
私が関係してなければ良いのだが……。
エレベーターに乗り込むイナガキを尻目に,弾の出ない拳銃を弄ぶ。
射撃訓練はこれ以上できない。分解でもして暇を潰そうか。
パーツのつなぎ目に爪を立てる。かなり頑丈に繋がっているようだ。
自棄になって力を籠めると,持ち手の部分が歪んでしまった。
「リッカー?」
「ひーっ」
「ちょっとこっちに来てー」
「あ,は,はいー!」
お洒落なデザインになった拳銃をカウンターに放り投げ,エレベーターの中に佇むイナガキの元へ走る。
「わ,私じゃないですよー?」
「既に察知していたか……。君のせいだとは思っていない」
私がエレベーターの扉の上に立っているというのに,イナガキは『閉』のボタンを何度も押している。
だが,エレベーターは応答しない。
「リッカ,この部分,表面の鉄板だけを外してほしい」
「あ,はい」
イナガキの示したエレベーターの操作盤から鉄板を剥がす。
中をのぞき込むと眉を顰めていた。
「……非常電源に切り替わっている」
「わ,じゃあ非常事態なんですね!
……電源が切り替わってるのにエレベーターは動かないんですか?」
「ここは旧施設だからね。電源供給は後回しだ」
イナガキが天井の取っ手に飛びつき,ハッチを開ける。
薄暗い空間が上部へ続いていた。
壁に梯子は付いているが,上にたどり着くまでどれだけ時間がかかるか。
「私,飛ぶので上まで連れていきますか?」
「……そうだね」
肯定の返事ではなかった。思考のつぶやきだ。
視線を泳がせ考えている。
だが,やがて私に目を合わせると頷いた。
「お願いするよ」
「へっへー! それじゃ急ぎましょう!」
開けたハッチからエレベーターの上に立ち,イナガキの手を引っ張り上げる。
ゆっくりと翼を広げ,上空の暗闇を見据えた。
青空じゃないのが残念だが仕方がない。
「イナガキさん,自分の首のところ。服を両手で持っててくださいね」
「あぁ,こうかい?」
「大丈夫です。上に着くまでに窒息しないでくださいね!」
「いや,そこを持って飛ぶのかい?
例えばベルトとかを持グぇッ」
イナガキの襟を両手で持ち,飛翔する。
どんな暗闇であっても,私の眼は終着点を映していた。




