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第531話 「拾い上げた命」

 結局,下の街で休日を過ごすことは出来ずに上の基地へ連れ戻されてしまった。

 事務椅子の冷たさを感じながら溜息を吐く。

 机の上に置かれたランプのスイッチをカチカチと押しながら,この部屋が取調室なのだと理解した。

 右手に見えるガラスはきっとマジックミラーで,私が怒られる姿やカツ丼を食べる様子を観察するんだ。



「うぅ……」



 カチカチカチ……。

 どれくらい時間が過ぎただろうか。

 救護活動を終えた時点で夕日が見えていた。既に夕飯の時間は来ても良いはずだが……。

 緊張の糸もほぐれて瞼が重くなり始めた頃,不意に扉が開かれた。



「やぁ,お待たせ。随分と派手にやったらしいね」


「うっ,あっ,それはですね」


「エレベーターのカメラは壊すし,未知の方法で厚さ50cmの強化ガラスを焼き切るし,テロリストを二人も倒した。

 男の欠損した左手はまだ見つかってないらしいよ」


「あ,すみません,これですね」



 魔法庫からスイッチを握ったままの左手を取り出し,机の上に置く。

 イナガキがギョッとした様子でそれを見ていると,知らない人が慌ただしく現れ,手を回収していった。



「……すみません」


「あぁいや,君は素晴らしいことをしたよ。

 君は生き埋めになった人々を短時間で全員救い出した。

 中には助からなかった人もいるが……君が居なければ犠牲者はさらに増えていた」


「そうですか……」



 ぐったりとした人が何人かいた。きっと怖かっただろう。

 どうか次は,安らかな人生を歩めるように……。



「あれ,そうなんですか! 私,怒られないんですね!」


「もちろんさ。君は正しい行いをした。

 未だに基地の中には,君がテック社のスパイだと考えていた者もいたが,考えを改めるだろうね。

 唐突ではあったけど,街の住民に新たなヒロイン『メガミ』の存在が知れ渡った。

 僕たちへの理解も広がるよ」


「いぇーい!」



 怒られないのであれば,あとはカツ丼を食べるだけだ。

 魔法庫からお箸を取り出していつでも食べられる体勢を整える。



「ん? ……あぁそうか。君は食事を取っていないのか。

 ハンバーガーでいいかな?」


「……またハンバーガーですか?

 いや別に良いんですけど,ハンバーガー祭りですね」


「基地まで届けてくれる店が少ないんだ。すぐに手配するよ」



 イナガキがマジックミラーへ向けて軽く手を挙げると,向かいの椅子に座った。



「あの,『お願い』のほうはどうなりましたか……?」


「成功だよ。2,3日もあれば目を覚ます」



 ほっと胸を撫でおろす。

 瓦礫を一つ一つ拾い上げている時からずっと気になっていた。

 もう少し,もう少しで私は一つの責任を果たせる。

 出来立てのハンバーガーが届いたのはすぐだった。


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