第504話 「メンテナンス部」
「こっちこっち」
窓から街の景色を見下ろしながら施設の中を歩く.
時々すれ違う人は私を凝視した後に頷きながら通り過ぎていった.
「私ってどんな感じに知られてるんですか?」
「基地とやり取りしてたのは隊長だから詳しいことは知らないけど……新型の機械ってことぐらいじゃない?
不信感を抱いてる人も少なからずいるだろうね」
「あんまり歩き回らない方が良い気が……」
「一生歩けなくても良いならその考えが正しいよ.
頭堅い奴らが多いから,頑固になった方が得」
シーラが『メンテナンス部』と書かれた扉を押し開ける.
先ほどの街が見える和やかな景色から一転して無骨な部屋になった.
鉄張りの壁と床,明るすぎる照明,よくわからない機械がところどころに置いてあり,オイルの匂いが漂っている.
どこに触れても怒られる部屋だ.
「ここでは銃や機械の調整をしてもらう.
リッカも後で頭の中を覗かれるだろうね」
「うぇっ,私そういうの出来ないタイプです」
「本当? ま,私じゃなくてイナガキに言うことね」
シーラが担いでいたライフルとホルスターの拳銃をカウンターに置く.
私も預かっていた銃を並べて置いた.
作業服の男がやってくると銃をどこかへ持っていく.
「さ,イナガキが戻ってくる前に行こ」
「おーい! こっちこっち」
早々にメンテナンス部から退散しようとすると,近くの扉から声が聞こえる.
丸窓から見ると,堅そうな作業台の上に寝るウィルが居た.
「やぁ二人とも」
機械である両足がむき出しになっており,ドライバーが突き刺さったままになっている.
「まったく困ったよ.
ちょっと待ってと言われてかなり時間が経つ.
エリックもどっかに行っちゃうし……」
「いつ見ても汚れが溜まりそうな足」
「なんだと眼光女.
俺の足,カッコいいよなぁリッカ」
「カッコいいです!」
ウィルの足はマーカスの腕とは違い,鉄骨がむき出しというわけではない.
鎧の様に模られた足は今にも変形しそうだ.
「ウィルさんもその……足が取れちゃったから機械にしたんですか?」
「ん? あぁ,俺は病気で足が動かなかったんだ.
これのおかげで速く走れるし高くジャンプも出来る.感謝しかないぜ」
「重い荷物も楽に持てるはずなのに持たないんだよコイツ」
「あれは肩が痛いんだって」
ウィルが渋い顔をしながら肩を揉む.
「じゃ,私たちは行くから」
「た,頼むから一緒に居てくれよ!
ここに一人っきりは頭がどうかなっちまう」
「作業服のお友達が沢山いるだろ!
服引っ張るなよ早く行かないとイナガキが……」
「僕がなんだって?」
両手に工具箱を持ったイナガキが扉を開けて立っていた.




