第497話 「コンタクト」
直線の長い通路だ.等間隔に並ぶ太い柱以外に物陰はない.
誰かの息遣いに交じって,金属の足音が響いていた.
地下空間で反響するその音は,左右どちらからなのかわからない.
柱の陰からシーラが顔を出し,こめかみの部分を二度叩く.
小さな機械音が鳴り,右目が僅かに輝いた.
何を調べたのかわからないが,K-100の進行方向を調べたらしい.
私たちは敵の裏を取っている.
マーカスに続き,柱で身を隠しながらゆっくりと全身する.
少しずつ,少しずつ金属の足音は近づいて来た.
直線の通路も終わり,T字の通路になる.
マーカスは壁に身体を預けながら左右の道を確認した.
すると,片方の道を指さしてから親指を下に突き出す.
動作の意味は分からなかったが,ウィルたちの身体が強張ったのを感じた.
どうやら敵を見つけたらしい.
ほんの少しだけ通路を覗いてみる.
今までと同じ構造の道が続いている.
50mほど先に格子状の赤いライトを点滅させながらK-100は歩いていた.
背中には金属の箱を背負っており,そこから帯状になった銃弾が右手に持つバカでかい銃で繋がっている.
魔物や敵意を向けた動物から感じる脅威はそこにはない.
私が視界に写ってもガタガタと歩いていそうだ.
だが,既に私は二度あれと戦っている.一度は魔王としてだ.
マーカスが動き始め,ウィルたちが続く.
弓矢でも当てられそうな距離だ.それでも尚近づくらしい.
柱の側を歩く組みと壁際を歩く組みで別れた.私はマーカスの居る壁組で続く.
K-100は私たちよりもずっと歩みが遅かった.
シーラと同じように暗視機能が付いた眼のはずだ.地面を照らすライトで一体何をしているのかわからないが,好都合だ.
K-100まで柱二つ分まで近づいた時,マーカスが歩みを止め,片膝立ちになり銃を構えた.
後ろに立つシーラも拳銃を立ちながら構える.
柱組のウィルとエリックも同様に銃を構えた.
K-100が片足を地面に下ろし,一瞬だけ完全な静寂が訪れる.
誰かの息遣いはもう聞こえなかった.
「撃て」
その短い一言で地下空間に光と爆音が訪れた.
四人の銃口から放たれた弾丸は火花とプラズマが散らしながらK-100の背中へ撃ち込まれる.
最初の数発は弾かれたように見えたが,『最初』だけだ.
マーカス達の使う銃は拳銃よりも強力で高速.次々と叩きこまれる弾丸にK-100の装甲は耐えられていなかった.
銃弾の軌跡が向こう側へと突き抜ける.
だが,それでもK-100は動きを止めない.
ゆっくりと振り向きながら銃口をこちらへ向ける.
巨大な銃身が回転を始めた直後,突然K-100の身体が硬直し,そのまま倒れた.
赤い瞳が数回点滅すると,やがて光を失う.
K-100は今,完全に機能を停止した.




