★第478話 「降臨」
メカニックのエリックに指示を出し、小型カメラでの録画を始める。
衛星を通じて本部にも送られるはずだ。
音響センサーに音を拾われないように息を殺して移動する。
見た目は従来のTタイプと変わりはない。
連装砲が索敵カメラと共に旋回を始めるのを見て、もう一度物陰に隠れる。
ウィルとエリックが汗を流しながら頭を丸めていた。
「いつもと同じだ」とアイコンタクトを送り、頷きあう。
Tタイプのみ送られてきたということは、俺たちを嵌める罠ではない。
人を狩るのならK-100人型兵器を送るはずだからだ。
つまり対兵器の為にTタイプは送り込まれた。
『プロジェクトメガミ』は俺たちに有用な兵器の可能性が高い。
咽喉マイクを軽く指で押し、寝息を立てるほどの声量で通信を始める。
「……こちらアイアン、サテライトミサイルを要請する。
目標は新型Tタイプ。照準は衛星の方で合わせてくれ。
中止要請がない限り準備が出来次第発射だ」
「了解。アツアツなのをすぐに届ける」
サテライトミサイルは無弾頭の誘導ミサイルだ。
ほとんどが落下のエネルギーによる破壊だが、大気圏外から発射の為、その威力は絶大だ。
着弾は順調にいけば一分後、最低でも建物の外には退避したい。
集合の合図を出し、駆け出したい気持ちを抑えて静かに移動を始める。
階段を下り始めようとした時、小さな射出音が聞こえた。
一つだけじゃない、合計で6回。同時にプロペラの音も聞こえる。
そのプロペラ音が小型ドローンだと分かった時、既に目の前を飛んでいた。
小さなカメラに、無精ひげを生やした老骨の姿が映る。
「走れ!」
転がるように階段を駆けだした瞬間、轟音と共に壁が吹き飛び始めた。
Tタイプがドローンの映像を元に37mm連装砲を撃ち始めたのだ。
「窓だ! 飛べ!」
前方を駆けるウィルが窓を突き破る。
吹き飛んできた瓦礫に足を取られているエリックを掴み、飛び出した。
僅かな浮遊感の後、地面に叩きつけられる。
右腕が情けない機械音をあげた。
「止まるな! 走れ!」
自分に言い聞かせるように叫び、エリックを立たせる。
連装砲は止まることなく学校の形を変えてゆく。
サテライトミサイルの到達まで持ち堪えなくては。
「シーラ! ドローンだ! ドローンを壊せ!」
「了解!」
レールライフルの発射音を聞きながら、近くの廃ビルへ駆け始めたとき、耐えられなくなった学校が倒壊した。
瓦礫の中からTタイプが直接現れる。もうドローンの有無関係無い。
連装砲の銃口がこちらに向いた瞬間だった。
上空から一直線に黒い物体がTタイプに落ちた。
金属の悲鳴と共にTタイプがへし曲がり、小さな爆発を繰り返す。
連装砲は既に明後日の方向を向いているが、Tタイプは完全には停止していないらしい。
小型ドローンが自身に何が起こったのかを知る為にTタイプの周りに集まり始める。
「間に合ったか……」
従来よりも小型のミサイルだったらしい。
破壊力が予想より低かったが、今回はそれで助かった。
「各員、残ったドローンを排除しろ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
シーラの動揺した声がイヤホン越しに聞こえる。
「Tタイプを破壊したのはサテライトミサイルじゃない。
人だ。人型兵器がTタイプにめり込んでいる!」
『プロジェクトメガミ』……!
腕時計が指定の時間を知らせる為に振動しているのに気が付いた。
情報通りに現れたのだ。
そしてミサイルじゃなかったということは……。
「中止だ! サテライトミサイルを止めろ!」
「ネガティブ。既に目標をロックして大気圏内に突入した。
今ロックを外せば君たちに被害が出る可能性がある。
早急にターゲットから退避せよ」
「クソ! 走れ!」
上空に白い輝きが見えた。サテライトミサイルだ。
あっという間に轟音が迫った。
「女の子だ! 黒い服の女の子がそこにいる! メガミだ!」
シーラの叫び声が聞こえるのと同時に、サテライトミサイルが着弾した。
無弾頭のはずが派手に爆発が起こり、土煙で辺りが見えなくなる。
「……こちらマーカス、全員無事か?」
「ウィル、何とか……」
「平気だ」
「私も大丈夫」
土煙を払いのけると、巨大なクレーターが目の前に出来ていた。
中央にはTタイプだったものが散らばっている。
「プランEだ。
『プロジェクトメガミ』の痕跡を見つけて持ち帰る」
「ヒャッハー! 了解!」
さっきまで鶏の様に逃げ回っていたウィルが銃を放りだしてクレーターに滑り降りた。
サテライトミサイルの威力を目の前で見たのが初めてなのだろう。
興奮する気持ちはよく分かった。
新しい煙草を取り出し、燻っているTタイプの破片に押し付けて火を灯す。
ゆっくりと空へ消えていく煙を見ていると、興奮したウィルの声が響いた。
「隊長! 来てください!」
エリックと共に鉄の瓦礫を押しのけたウィルが地面を指さす。
「……まいったな」
そこには鉄の布団を見に纏う白髪の『メガミ』が居た。




