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第468話 「伝染した想い」

 

「まぁまぁだな。まぁまぁだったんよ」



 ポタージュを三杯、パンを六個食べたネイリスが満足そうな顔で口元を拭く。

 パンを根こそぎ取られたベルタが、悲しそうに微笑んでいた。

 後で補充してあげよう。



「ん、それ何の書物だ」



 ネイリスがベッドの上に置かれた『ネオン街の漢気』に気付く。

 表紙のおじさんたちに負けないくらい眉間に皺を寄せていた。



「それは漫画です。娯楽の一つなんですけど、戦い方の参考に出来るかと思って……」


「へぇ」



 それだけ言うと、漫画をベッドに放り投げる。

 どうやらあまり興味はないらしい。

 腕を組んで天井を見上げていたネイリスが「そうか」と呟く。



「アイツも本を参考にしたのか」


「誰がですか?」


「赤毛の女神」



 何やらぶつぶつと呟き始めると空気が少しづつ重くなる。

 それにつれて、ベルタの笑顔も引きつっていった。



「えーっと……エリカちゃん強かったですか?

 引き分けって聞いたんですけど」


「死神と女神が戦って『引き分け』だ」



 ネイリスが下唇を噛む。

 衝動的に何かを捥ぎそうなほど怒りが溢れていた。



「あ、あぁえっと、お茶でも淹れましょう!」



 場の空気に耐えられなくなったベルタが、わざわざ席を立ってお茶の準備をする。

 甘い紅茶の香りが漂うまでネイリスは一言も喋らなかった。



「女神になってからも戦闘の訓練はあるのか?」


「ほかの課はわからないですけど、転生課はなかったです」


「そうだよな。

 それなのにアイツの身のこなしはウチと同等だったんよ。

 確実にお前より強い」



 ネイリスが紅茶を一口飲むと、眉をひそめてから用意された砂糖を二杯加える。

 私も相当頑張って戦っているのだがエリカの方が強いだなんて、天界は堕天させる女神を間違ったのではないだろうか。



「お互いの力が均衡して引き分けだなんて、良いライバルですね」



 紅茶の香りを嗅いで平穏を取り戻したベルタがネイリスに笑いかける。

 だが、その平穏もネイリスに睨まれると一瞬で消し飛んだ。



「違うウチが一方的にやられた」


「え、じゃあどうして引き分け何ですか?」


「勝利条件を決めてなかったからだ。アイツが一方的に引き分けを宣告した。

 ……クソ、ウチがボコボコにする予定だったのに」



 一気に紅茶を飲み干すと、そこの方に溜まっていた砂糖をガリガリと噛み始める。

 よっぽど悔しいのだろう。

 ストレスの矛先は私ではなく砂糖らしい。


 砂糖を満足するだけ噛み砕いたネイリスは、思い出したかのように私を見るとポツリと呟いた。



「アイツ、なんかおかしいんよ」


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