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第425話 「交わす指先」

 

「お父さんかも、しれない……」



 トコが小さな鼻を動かしながら、不安げに先を見つめる。

 耳を澄ましてみるが、人の気配はない。



「……行ってみましょう」



 一つ一つ、暗い檻の中を確認しながら先へ進む。

 その度に私の腕を掴むトコの小さな手に力が籠っていった。


 残りの檻は数少ない。

 次の檻か、その次か……。

 そこまで近づいた時、トコが大きく息を吸った。

 カリックが今、どんな状態かはわからない。

 それでも、この小さな背中を止める者は誰もいなかった。


 次の檻を覗いた時、ついに捕まっている獣人を見つけた。

 壁に拘束された両手首を軸にぶら下がっており、屈強そうな肉体にはボロボロになった衣服を身に着けていた。



「お父さん!」



 トコが鉄格子に飛びつき、小さな手を中へ伸ばす。

 当然ながら届くことはなく、カリックの反応もなかった。



「リッカ頼めるか」


「は、はい」



 ヴァルトがトコを檻から引き離した隙に、鉄格子を折り曲げる。

 幸い、ここは魔法で強化されていなかった。



「お父さん!」



 トコが開いた隙間から中へ飛び込んだ。

 カリックの胸に頭をすり寄せながら抱き着く。



「どうしよヴァルト、お父さん、生きてる?」



 ヴァルトが無言で近づき、カリックの顔を持ち上げる。

 獣度はトコとヴァルトの間くらいだろうか。

 瞼を指で開け、首筋に手を当てる。



「大丈夫だ、生きてる」


「め、目から鱗、良かったぁ」


「リッカ、身体を支えているから手首の鎖を頼む」



 鉄の拘束具を引き千切り、カリックを床へ寝かせる。

 ここにやって、やっとカリックが薄く目を開けた。



「お父さん! 助けに来たよ!」


「あぁ……」



 乾いた口を動かし、絞り出すように声を出す。

 ヴァルトが頭を持ち上げ、そこにゆっくりと水を流し込んだ。



「……いつか、いつか救援が来るとが信じていたが。

 棚から牡丹餅だな、トコが来るとは思わなかったよ」



 ゆっくりと腕を持ち上げると、トコの頬を愛おしそうに撫でた。



「ヴァルト、ここに来るまでに手術室があっただろう?」


「あぁ、あった」


「……そこの向かいの部屋に迎え。

 多分、そこが……管理室だ。

 ここの主だと思われる奴も、そこにいた」



 檻の外で周囲を警戒していたネイリスがカリックを見る。



「そいつの力は?」


「新種の……合成獣キメラだと思われる。

 獣人の通常体から、身体全体や一部、自由自在に他の動物へ変形、させてい……た」



 そこまで言うと、トコの頬を撫でていた腕が床に落ちた。

 薄く開いていた瞼も閉じられている。



「お、お父さん!?」



 ヴァルトがカリックの腕を持ち上げ、手首に手を当てる。



「し、死んじゃった?」


「……いや、眠ったようだ。

 お前の姿を見て安心したんだろう」


「良かったぁ」



 トコがもう一度カリックの胸に頭をすり寄せる。

 暗い檻の中には、安堵の溜息と静かな寝息だけが響いていた。


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