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第39話 「天空人という存在」

 

「すまなかった!」



 グレンに連れられて宿屋に入ったときに、急に頭を下げられた。



「ベンガルは悪いやつじゃないんだ。

 ただ、昔から少し過保護というか勘が良いというか……。

 とにかく不快な思いをさせてすまない!」


「へ、平気ですよ!

 ちょっとびっくりしただけです!」



 ベンガルという男は、見た目は少し怖いが

 話している時の印象は、とても気さくで頼れるおじさんという感じだった。

 そんな彼も『天空人』のことを嫌っているのだろうか。



「あの、グレンさん。

 もしよければ、あなた方が『天空人』に対してどう考えているか教えてもらってよいですか?」



 グレンが頭を上げ、周りを伺う。



「……わかった。

 その話は、部屋に入ってからにしよう」



 グレンはそういうと、宿主らしき人と話してから二階へ案内してくれた。



 木の扉を開けると、小さな窓と壁沿いにベッドが一つ。

 小さなテーブルと椅子がある小ぢんまりとした部屋だ。



「ここが君の部屋だ。

 僕の部屋は隣にある。

 着替えてくるから少しだけ待っててくれ」



 グレンが部屋から出ていくと、隣の扉が開く音が聞こえる。

 ベッドに腰を掛けると、ちょうど良い位置に窓がくる。

 外の様子を伺うと、陽はすっかりと落ちて暗くなっている。

 夜は初めてだ。

 転生課の仕事部屋の暗さとは違う、どこか不安になる闇がそこにあった。


 隣の扉が開く音がして、少し間が空いてから私の扉がノックされる。



「どうぞ」


「すまない、待たせた」



 扉が開き、グレンが入ってくる。

 重そうな鎧を脱ぎ、布の服になっていた。

 グレンは椅子を引っ張って来て座る。



「それで……その、『天空人』に対してどう思っているかだったな」


「はい。どんな悪口でもいいので思っていることを言っちゃってください」



 どうせ私のことではないのだ。

『天空人』がこの世界で重要な役割のような気がする。

 この際、聞き出せる情報はすべて聞いてしまいたい。



「多くの人が、君たち『天空人』のことを臆病者や偽善者だというが、僕はむしろ君たちのことを尊敬している。

 多くの者が『戦う』と決めるなか、『戦わない』という選択肢がどれだけ難しいか。

 魔王を刺激することは良くないと、僕も思っている。

 それなのに、君たちだけが辛い生活を強いてしまっていることをすまなく思う」



 なんとなく話が見えてきた。

 元々、人間と天空人は共存に近い関係だったのではないだろうか。

 そこに魔王が現れ、人間は戦うことを選択したが

 天空人は戦わないことを選択した。

 それに対して人間側がよく思わず、天空人を迫害している

 と、いう感じなのだろう。



「天空人がなぜ『戦わない』選択をしたか分かりますか?」


「詳しいことは知らない。

 正直、人間の何倍も力を持つ君たちが、食料の為でさえも殺傷をしないというのが不思議でたまらないんだ。

 宗教的な理由とも聞いたことがあるんだが、実際のところどうなんだ?」


「まぁ、そんなところです」



 やはり、天空人は私達女神と似た存在なのかもしれない。

 だが、戦わない理由は私にもわからない。

 天界のことを考慮しているのだろうか。

 私だったら堕天してまで「生き物を殺すと転生課の仕事が増えてしまう」なんて考えない。

 いずれにしても、天空人とは接触したほうがよさそうだ。



「天空人に対して、どう考えているかわかりました。

 ありがとうございます」


「もういいのかい?

 ……僕も一つ質問を良いかな?」


「ええ、私に答えられることだったら」



 グレンは、少しだけ迷った素振りを見せてから重そうに口を開いた。



「君たちは……。天空人は人間のことをどう思っているんだ?」



 グレンが私と同じような質問をした。

 だが私と違い、この質問の答えは直接自分にくるものだ。

 気軽に質問した私とは気の持ちようが違うだろう。



「天空人の総意とは違いますが、私の想いを伝えましょう」



 女神として生きてきたからわかる。

 人間とは、他の生き物と違い臆病な生き物だ。

 利口故の臆病さともいえる。

 他の生き物達が生きる為に、自分の為に必死で生きる中

 周りの目を気にするのは人間だけなのだ。



「天空人を迫害してしまうのも仕方のないことだと私は思います。

 天空人の『戦わない』という選択を理解できないのは、天空人が分かってもらう努力が足りないとも言えます。

 お互いがもっと歩み寄らなければいけない問題ですね」



 適当に大口叩いてしまった。

 天空人の方、ごめんなさい。



「そんなことを考えていたのか……。

 人間も天空人を理解しようとしない面もあるし

 天空人の多くは人の手が届かない遠い地で閉鎖的に暮らしている。

 確かに君の言う通りかもしれない」



 グレンが勝手に納得する。

 まぁ、外れたことを言ったわけでもなさそうだ。良しとしよう。



「ありがとうリッカ。

 君の考えが聞けて良かったよ」



 グレンは椅子から立ち上がる。



「今日はもう休もう。

 君も一人旅で疲れているだろうから早く寝たほうが良いよ。

 何かわからないことがあったら気楽に聞いてくれ」



 グレンがそういって部屋から出ていった。

 隣の部屋からガチャガチャと音がするが、やがて静かになる。



 グレンの話を簡単に頭の中でまとめる。

 やっぱり、『魔王』はいるのか。

 私の堕天は、すべて転生と同じように行われた。

 そして、私は『女神』というユニークスキルを持っている。

 ユニークスキルは本来、『魔王』に対抗する為の力だ。

 ユニークスキル持ちは必然的に『魔王』が存在する世界に引かれるのだろう。


 なら、私がするべきことは『魔王』を討伐することなのだろうか。

 でもそれは、天界の『仕組み』に沿ったことなのではないだろうか。


 何をするべきか。何が正しい事なのか。

 この世界で生きていくなかで、私は私の納得できる答えを見つけなければならない。


 様々な考えが浮かび、葛藤しているうちにいつの間にか眠りについていた。


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