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第32話 「潜む仕組み」

 


 意識が少しずつ覚醒する。

 身体が何かに覆われているのに気づき、自分がいつの間にかベッドの上にいることに気が付いた。

 暖炉の側の椅子から離れた記憶がない。

 誰かが運んでくれたのだろうか?


 薄く目を開けると、見知った木製の天井ではなく

 無機質な白い天井が見えた。



 ここはどこだろうか。



 横たわった身体を起こそうとするが、鉛のように重く、頭を上げるだけで精いっぱいだ。

 頭だけを動かして見渡してみると、他にもベッドがあることに気が付いた。

 だが、そこには誰も寝ていない。

 ベッドの横には小さな机や棚がある。

 部屋全体を把握して、一つの違和感を覚えた。



『暗い』。

『薄暗い』のではない。

『暗い』のだ。

 まるで太陽の光が無いように暗い。


 急にこの空間が恐ろしくなった。



 ここはどこ?



 目をぎゅっと瞑り、恐怖に耐える。

 誰もいない。何も聞こえない。

 この世界で、私は一人ぼっちなのだ。

 誰も。


 いない。



 ………………………………………………

 …………………………


「……リッカ、生きてるのですか?」



 肩を揺さぶられ、目を開ける。

 そこには、心配そうに覗きこんでいるテンシの顔があった。



「テーちゃん……?」



 私が声をかけると、テンシが安心した顔をしてソファーに座り込んだ。



「……ちょっと様子を見に来たら、死んだみたいに動かねーので心配したのです」


「えへへ……ごめんね。いろいろ疲れちゃってさ」


「……寝るのならしっかりベッドで寝るのです」



 軽く伸びをしようとすると、身体のあちこちが痛い。

 無理な体制で寝ていたせいだろう。

 少し身体を動かそうと思い、椅子から立ち上がった時、家の扉が乱雑に開かれた。



「入るぜー」


「……ノックぐらいしないのですか、この赤毛は」



 エリカが私の様子を見て大げさに驚く。



「リッカが立ってる!」


「いや、ここ数日ずっと座ってたからってそんなに驚かなくても……」



 苦笑しながらカップを3つ用意し、紅茶を淹れる。

 ソファーに座ったエリカが袋を取り出して机に置いた。



「ちょっと覗いてみたら良いメニューだったから貰ってきたぜ」



 袋を広げると、中にはクッキーが入っていた。



「名前は忘れたが、なんかの木の実を入れたクッキーらしいぜ」


「……気を利かせることができるなんて、いつから女神になったのですか」


「うるせえ!食わせてやんねえぞ!」



 目の前からクッキーを取り上げられ、テンシがあわあわと手を伸ばす。



「まあまあ、テーちゃんも悪気があったわけじゃないだろうし……」


「悪意しか感じねえよ!」



 結局、エリカはしぶしぶと袋を広げ、三人で食べた。

 クッキーはほのかに甘く、香ばしく、美味しかった。




 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 三人でお茶を終え、一息ついた頃にアイメルト先生がやって来た。

 先生の分も紅茶を淹れ、暖炉の側の椅子に向かい合って座る。

 エリカとテンシは、少し離れたところにある円卓に座った。



「昨日よりは元気そうに見えるわ。

 あなたなりの『答え』を見つけることが出来たかしら?」


「はい、先生。私、いろいろ考えてみました」



 私が仕事をしなくなった理由。

 それは、『自分の世界を守る為に誰かを犠牲にする』ことが嫌だったからだ。

 誰かの犠牲の上に私達が成り立っていることがはっきり言って気に食わない。

 死に怯えることもなく、誰かを利用する立場にいるという生活

 それが『幸せ』だと思うこともないし、天界に生まれてきて『運が良かった』とも思わない。


 私が望むことは、転生の『仕組み』を変えること。

 自然に任せた転生ではなく、すべてを天界で管理する仕組みにしたい。

 その為には、私が『仕組み』に関与できるくらいの力を持たなければならない。

 だけど、たぶんそれは今のままでは叶わない願いだ。


 なぜなら、私が『女神』となってからの500年間余り

 何も『変化』していないからだ。

 身長は伸びない、体重も変わらない、年も取らない、魔力が増えることもない。

 つまり、私は『成長』をしていない。

 私たちが天界で与えられるのは、『褒美』という疑似的な成長。

 これもたぶん『仕組み』の一部なのだろう。


 私が、私のエゴを

 私の願いを叶える為に今するべきことは、『仕組み』からの脱却。


 だから、私の『答え』は…………




「私、堕天します」






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