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第317話 「倍々クッキング」

 

 高い店。

 普通の店との違いは一目瞭然だ。

 大きな窓からは朝日が差し込み、壁に飾られている彫刻を照らす。

 天井にはシャンデリアもあった。

 何よりも大きな特徴なのが、厨房の様子が丸見えだということだ。

 調理の様子を楽しめる。

 ……だが、テーブルは普通だ。

 いつもより少し堅そうな木製の円卓がいくつも並んでいる。



「ちょっと待ってくれ」



 カイトがそういうと、どこからともなく真っ白いシーツを取り出した。

 それを円卓の上にシワができないように広げる。

 最後に小さな花瓶を中央に置いた。



「どうぞこちらへ」



 わぁ高そう。

 一気に雰囲気が生まれた。

 先にトコを椅子に座らせる。

 興奮状態から覚め、雰囲気に飲まれているようだ。

 カチッとした姿勢で椅子に収まった。


 私も椅子に座ろうとすると、カイトが声を上げた。



「君も合成獣キメラなのか」



 私の小さく畳んでいた翼に気が付いたらしい。



「えへへ、私もカイトさんと同じ合成獣です」


「いや、俺とじゃなく……まぁいい。

 とりあえず今は飯だ」



 カイトは厨房へ入ると全ての手に器具を持ちながら料理を始めた。



「……ヴァルトさん、本当にお金は平気なんですか?

 とっても高いですよきっと!」


「心配するな。

 それに万が一足りない時はカリックにツケる」


「カリックってトコちゃんのお父さんですよね。

 良いんですか? そんなことして」



 ヴァルトが鼻で笑いながら椅子にもたれ掛かる。

 実はトコのお父さんって結構稼いでいるのだろうか。

 そういえば関所でもカリックの名前を出して通れたし……。



「うぉ……目から鱗」



 トコの感嘆詞に釣られて厨房に目をやると凄い光景だった。

 片手で卵を割り、醤油を垂らし、フライパンからは金色の米が舞う。

 腕が4本なければできない同時進行だ。

 作っているのは炒飯らしい。

 少しだけホッとした。

 創作料理なんかが出てきたら食べ方に困る。


 フライパンを軽く叩きながら皿に炒飯を盛り付けるところも全部見た。

 いよいよ料理が届く。

 少しだけ澄まして座った。



「お待ちどう様」



 カイトが円状に盛った炒飯を運んでくる。

 1皿だけ旗が付いているが……残念ながらトコの前に置かれた。



「美味そう!」


「美味いぞ」


「ひゃひゃは」



 料理を前に興奮したトコだが、身に着いた習慣は忘れない。

 一瞬だけお祈りをするとスプーンを手に炒飯を喰らい始めた。



「うまっうまっ!」



 私もスプーンを手に炒飯を掬う。

 驚くほどパラパラの炒飯だ。

 良い意味で食べ辛い。

 これは……トコはまき散らしながら食べる。


 そう心配しながら顔を上げると、トコがいつの間にか前掛けを身に着けていた。

 後ろの方でカイトがサムズアップしている。

 なるほど、子供大好きなだけに扱いは慣れているらしい。


 安心して炒飯を食べ始める。

 焦げ醤油の香る黄金色の炒飯は、今までで食べた朝食の中で一番おいしかった。


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