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第309話 「トコパニック」

 

 アマルズは山際に建つ城から扇状に街が広がっている。

 とびっきり大きな街というワケではないが、それなりに密度が高い。

 中でも特徴的なのが、街の入口から見ただけでも3本、大きな柱が建っているということだ。

 柱の上部は円盤になっており、そこから箱状の建物がいくつもぶら下がっている。

 その建物から多くの鳥人が出入りしていることから、彼ら専用の建築物だと理解できた。


 上を見上げていると、急にヴァルトが私を地面に下ろす。

 代わりにフラフラと歩くトコを肩に担ぎあげた。



「あれ、いいんですか私の事を下ろして……。

 なんかこう、捕まえとかないと周りの人が怖がるんじゃないですか?」


「担いでたのは関所に並ばなくても良い理由を説明するのが面倒だったからだ」



 はえー、そんな理由で私は恥ずかしい思いをしたのか。


 トコを担いだヴァルトは一直線に城へ向かうと思いきや、城壁に沿って歩き始めた。

 面倒だろうから理由を聞かずに後をついていく。


 街の様子は至って普通だった。

 獣人の街だから身体的な特徴を活かした自由な建築物だとか、叫び声とかを期待していたのだが、人間の街とさほど変わりがない。

 ……鳥人以外。


 ヴァルトと共にたどり着いたのは宿屋だった。



「トコがおかしくなっているのはわかるだろう」


「は、はい、まぁ……」



 肩の上に居るトコは、相変わらず忙しなく顔を動かしている。



「これは沢山の事に興味を持ちすぎて頭が追い付いていない状態だ。

 情報を取り込むのに夢中で何も考えていない」


「へぇ、これはそういう……」



 興味を持つというのもまた大変なことだ。

 トコは多分、興味を持つ対象の選択ができていないのだ。


 宿屋の中に入ると、すぐに宿屋の主人らしき猫顔の人が飛んできた。

 獣度が低い為、女の人だとすぐわかる。



「トコちゃんとヴァルトさん、この時期に来るのは珍しいですね。

 いつも通りお部屋は一つでよろしいですか?」


「いや、今日は二つで頼む」



 ヴァルトが顎で私を指す。



「承知しましたー」



 猫の人は身を翻すようにステップしてからカウンターの下から鍵を二つ取り出した。


 案内に従って宿屋の中を歩く。

 街の端にある為か、この時間になっても私たち以外の客はいないらしい。



「ではヴァルトさんはこちらの部屋で。

 女性の方は向かいのお部屋へどうぞ。

 何か要望がありましたらお気軽にお声掛けください」



 猫の人が一礼すると、静かな足取りで消えていった。

 ヴァルトが肩からトコを下ろし、小さな手を私に握らせる。



「俺はしばらく休む。

 トコは1時間ほどで元の状態に戻るはずだ。

 適当に夕飯でも食ってくれ。

 城には明日行く」



 ヴァルトが早足にそういうと部屋の中に入っていった。

 やはり、ヴァルトもどこか調子が悪いのだろうか。


 部屋の中にはどういうワケかベッドが一つしかなかった。

 トコをベッドに寝かせ、私は椅子に座って外からアマルズの様子を眺めた。


 夕日に照らされた動物の街は活気に溢れていた。


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