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第243話 「冷たい目」

 

「すぐ教えろって言われたのはこれくらい。

 後は随時教えた方が分かり易いんよ。

 最後にこれを渡す」



 スキル、望んだ生き物、記憶、この3つのどれを犠牲にするか悩んでいるとネイリスが巨大な鎌を机に置いた。

 衝撃で小さな花瓶が倒れる。



「鎌! 鎌だ!」



 ベルタが持っていたのと同じだ。

 やけに装飾の施されたそれは壁にでも飾っておくとお金持ちに見えそう。

 だが、一万歩くらい譲っても可愛いとは言えない。

 柄頭には髑髏が彫刻されており、窪んだ瞳が私を見ていた。



「私、鎌なんて振り回せませんよ!

 いらないいらない」


「ただの鎌じゃない。

 使用者の想像を反映して形を変える武器だ。

 持ってみろ」



 鎌の柄を手にする。

 机の上に置かれた鎌を持ち上げるのはかなり重く感じた。

 何でこんな大きな鎌なんだ。

 もっとコンパクトなら良いのに。


 そう思った瞬間、手にした鎌が急に軽くなる。

 いつの間にかお手軽に草を刈れそうな大きさの鎌になっていた。



「わ、すごいすごい」



 なるほど、想像を反映するとはそういうことか。

 他にも剣や槍、斧にもしてみた。

 もしやと思い、クマのぬいぐるみを想像してみる。

 鎌は形を変えて思い通りのクマになった。どうやら武器以外にもなるらしい。

 ……お尻に髑髏の模様が無ければ完璧だった。



「『夢』の『幻』で『夢幻むげん』って呼ばれてる。

 ウチらの『想像』出来ないほど固く、鋭利だ。

 これのおかげでいちいち武器を『想像』する必要が無いってワケ」



 つまり私がグレンの剣を『想像』してあげたようなことは必要なくなるワケだ。

 手を離すと元の鎌に戻る夢幻を見る。

 迫りくる柄を見てベルタが椅子を引いた。



「なんで元が鎌の形なんですか?

 もっとこう……小さい物だったら邪魔にならないのに。

 これも死神らしさとかそういうやつですか?」



 ネイリスが私を冷たい目で見ていることに気が付いた。

 夢幻の柄が小刻みに震える。



「戒めだよ。自分が『死神』だってことの。

 変幻自在で最強の武器だから夢幻を手放すことは出来ない。

 そして夢幻を手にする度に自分が『死神』だってことをを思い出す。

 自分の仕事を。自分の役割を。

 これは敵を殺す武器であると同時に、アンタらを縛る鎖でもある」



 鎖……。

 柄頭の髑髏と目が合う。

 まるで私を監視しているようだった。



 ネイリスが椅子から立ち上がると小さく伸びをする。



「本当はウチが使い方を教えるんだけど、新人はそいつに教えてもらって。

 たぶんそっちの方が良いっしょ。

 明日までに自分が使う武器の形状を考えておいて」



 片手をあげて部屋から出ていくとふぅっとため息を吐いたベルタが椅子から立ち上がる。



「私、一つ確信したことがあります」


「……なんですか?」


「ネイリスさん、絶対に私たちの名前を覚えていません」



 そういえばまだ一回も名前を呼ばれていない。

 というか、名前を教えていない。


 私は物以下か。


 机の上の戒めは変わらず私のことを監視していた。


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