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第233話 「無何有の世界」

 

『想像』したティッシュで鼻血を抑えながら目の前で階段を下りる死神を見る。

 黒髪に黒い衣。確かに見たことがある。

 確か女神育成学校に居た頃だ。

 そう、確か名前は……。



「……ネイリスちゃん?」


「あん?

 ウチ、名前教えたっけ

 ていうか、何で『ちゃん』付けんよ?」



 ネイリスが首を傾けて私を見る。



「ほら、その……。

 同期ですよね、同級生ですよね?

 女神育成学校で同じ授業を受けてたと思うんだけど……」



 ジッと私のことを見てからプイッと前を向いて歩き出してしまう。



「人違いだね。

 ウチは天界で過ごしたことなんてないんよ」


「で、でも名前が一緒だし……。

 ほら! 体育の授業でエリカちゃんに負けたよね」



 ネイリスの動きがピタッと止まった。

 全身がピクピクと震えているように見える。



「あの……?」



 肩に手を伸ばそうとして引っ込める。

 震えていたのはネイリスではなく、周りの空間だ。

 重い地響きのような音が地下に響き渡る。



「思い出した……」



 ゆっくりと振り返ったネイリスの瞳孔が縦に引き伸ばされていた。

 獲物を見るような目で冷たく私を見る。

 思わず目を瞑りながら両手を小さく上げてしまった。



「わ、私はエリカちゃんじゃないです……」



 私を叩きつけるように震えていた空気が次第に収まっていくのを感じた。

 薄く目を開けて見ると、もうネイリスは私の事を見ていない。



「そうか、そうだな」



 そういうと何事もなかったように階段を降り始める。



 こ、怖かった。

 死神はみんなこんな感じなのだろうか。



 息を整えながらネイリスの後に続いた。




 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 もうしばらく階段を降りると、周りの壁がなくなった。

 建物への入口かと思ったがどうやら少し違うようだ。

 見渡す限り黒い地面が広がっている。

 まるで別の世界へやって来たようだ。



「ここも……地獄ですか?」


「そうだよ。

 地上部は色々と身体に悪いんよ。

 だから地下に世界が創られた」



 黒い地面に降り立ち、地面の触感を確かめる。

 硬そうな見た目とは裏腹に芝生を触っているようだ。



「よし、じゃあ新人。

 改めて地獄へようこそ。

 これからウチが言うことは世界の為に大切な事だから聞き逃すじゃないんよ」


「は、はい! 了解です!」


「うんうん。

 じゃあまずは服を脱ぐんよ」



 よーしやるぞと意気込みながら服の襟を掴んで頭を引っ込める。

 そこで動きが止まった。

 白い布地を見ながら疑問が頭を埋め尽くす。

 服を脱ぐんよ? なんで?



「ど、どうして脱がないといけないんですか? 全部?」


「アンタがなんの仕事してたか知らないけど、基本原理は一緒っしょ?

 ほかの世界からの服、武器、食べ物とかを別の世界に持ち込んだらバランスを崩す可能性があるんよ。

 だから全部脱いで全部出せ」



 渋々と服を脱いで畳んで地面に置く。

 ネイリスが手をかざすと、炎を上げて一瞬で塵となってしまった。



「あ、あぁ……。

 そういえばこの服はライン街とかで買ったのもじゃなくて『想像』で創った物なんですけど……」


「ライン街?

 あー『想像』で創った物は意識から外れると消えるから処分する必要はなかったけど、まぁ身体で覚えた方が早いっしょ。

 ほら脱げ脱げ」



 やっぱり脱ぐ必要はなかった。

 どうせ燃やされるんだからとズボンも下着も靴も投げた。

 別れを告げる暇もなく塵と化す。



「こ、これで良いですよね。

 次は魔法庫ですか?」


「ん、それそれ。

 まだ残ってるんよ」



 ネイリスが私の頭を指さす。

 何か着けてたっけと思いながら頭に手を伸ばすと……。


 カイルから渡されたシュシュが手に触れた。



 返すと約束したグレンのお母さんの形見。

 燃やされるワケにはいかない。



「どうしたん?」


「いや、あ、へへ……。

 すっかり忘れてたなぁーって」



 ネイリスからシュシュが見えないようにゆっくりと髪から外す。

 途中、左手で魔法庫に入れて右手で同じシュシュを『想像』した。

 些か不格好だったがバレてないはずだ。



「は、はい。

 これで最後ですね」



 シュシュを地面に放り投げてネイリスを見る。

 ネイリスはジッと私のことを見ていた。



「アンタ……」



 ネイリスが立ち上がり私に近づいてくる。


 入れ替えたのがバレたか?

 こ、怖い。

 思わず泣きそうになると、急にネイリスの表情が崩れた。



「それ外すのへったくそだな!」




 声を上げて笑い始める。

 私も冷や汗を垂らしながら苦笑いした。



「それは見逃してやるけど次やったら首飛ばすぞ」



 急に真顔になったネイリスを見て気が飛びそうになる。

 バレてた。バレてた。



「よし、次は魔法庫だ。

 ほら出せ出せ」



 背中に冷たい汗が伝う。

 魔法庫の中にはシュシュとは比べ物にならないほど大切でヤバイものが入っている。



 グレンさんーっ!



 心の中で叫びながら魔法庫から少しずつ物を取り出し始めた。


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