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第210話 「ウェーブ」

 

 朝陽に煌めく波の上を駆ける。

 この海の上を渡るのは、これで三度目だ。


 ゆったりとした大型客船。

 パームと出会ったのが一度目。

 小さな魚のかき揚げが美味しかった。


 高速船で甲板に出てグレンに怒られたのが二度目。

 夜に、グレンにドッキリを仕掛けた。

 破損した船は、まだナイーラ港に停められているはずだ。


 そして、今が三度目だ。

 今の旅は、大型客船よりも安らかな気持ちではない。

 そして高速船よりも、ずっと早い。



 地平線からは、朝日が顔を覗かせていた。

 この世界に来た時は、夜が少し怖かった。

 朝の光を待ちわびていた。


 けれど、今はもう少しだけ夜でいてほしかった。



「……ベルタさん! あれは!」



 ずっと先の方に、いくつもの黒い影が空を覆っていた。

 目を凝らしてハッキリとそれを見る。



「私にも見えました。

 ……飛行型の魔物ですね」



 残酷なほどその数が多い。

 100は下らないだろう。



「あれは少し数が多すぎませんか?

 しかも飛んでますよ!」


「ライン街には、都市防衛装備がありますが……。

 あれは少し多いですね。

 別の方角からもやって来てるはずです」



 ということは、単純に考えると東西南北からあれだけの数が攻めてきている。


 魔物の大群に近づくと、その姿がよく見えてきた。

 骸骨の鳥や、人型の悪魔のような者、小さな龍まで居る。



「少し数を減らしましょう。

 リッカさん、危ないので上の方を飛んでください!」



 ベルタがその場に静止すると、ボソボソと何かを演唱する。

 すると、その演唱に合わせていくつもの魔法陣が構築され始めた。


 魔法陣の創り方も、創られた魔法陣も初めて目にする。

 たぶんこれは、この世界の魔法ではない。



「ギアナフォース!」



 ベルタの声と共に、魔法陣から無数の光球が放たれた。

 朝陽に照らされても、光たちは存在をはっきりとさせている。

 光球は、うねりながら魔物の大群に突っ込むと、それぞれが小さな爆発を起こす。


 何体もの魔物が、爆発に身を引き裂かられ、海の落ちるのが見えた。



「凄いじゃないですか!

 あと4発くらい撃てば全滅させられますよ!」



 興奮しながら話しかけるが、ベルタは小さく首を振る。



「残念ながら、今の魔法はそう何度も撃てるわけではありません。

 今はまだ、温存しておきましょう。

 それに、他の方角からの魔物は既に到着してるかもしれません」


「そ、そうですね。

 急ぎましょう」



 昼間までにはライン街へ着くはずだ。

 魔物を眼下に、先を急いだ。



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