第1話 「爬虫類は無口」
「あなたは不幸なことに命を落としてしまいました。」
緑色のトカゲはクリクリとした目で私を見る。
どこまで状況を判断出来ているか分からないが、とにかく続けるしかない。
「様々な想いがあると思いますが、あなたに選択を迫らなければなりません。」
トカゲに手をかざすと、様々な情報が一瞬で頭に流れ込んでくる。
その大部分がトカゲの生涯であり、転生させる際に必要な情報だ。
善良ポイントは……102持ってる。
「問いましょう。あなたは望んだ生き物へ生まれ変わる権利があります。
あなたは何に生まれ変わり、新たなる人生を歩みますか?」
すべての生き物には、『善良ポイント』というものが与えられている。
どれだけ善良に生きてきたかによってポイント数が上下され、このポイントによって転生時の待遇が変わるのだ。
『望んだ生き物に生まれ変わる』───100ポイント
『ユニークスキルを付与され生まれ変わる』───500ポイント
『記憶を保持したまま生まれ変わる』───1000ポイント
「あの……?」
応答のないトカゲに対して詳細に説明をしようとすると、頭の中にぼんやりとした映像が流れてきた。
これはテレパシーの一環だ。
言葉を持たないトカゲの想いが、映像として頭に流れ込んできている。
「これは…ドラゴンですか?」
私を見つめたままのトカゲが小さく頷いたように見えた。
「かしこまりました。少々お待ちください。」
営業スマイルを見せてから転生に適切な世界を探し始める。
ドラゴンと言えば強大なエネルギーを持つ存在だ。
世界のエネルギーバランスを保つ為には、ドラゴンが当たり前のように存在する世界でなくてはならない。
生態系のほとんどがドラゴンで構成された世界か、もしくはドラゴンを並び合える程の力を持った生物が存在する世界だ。
世界は無数に存在するから目的の世界が見つからないことはない。
ただ、今回は探すのに少し骨が折れた。
適切な世界をやっと見つけると、両手を広げ立ち上がりトカゲが望んだ生物へ生まれ変われるように祝福をかける。
「転生の準備が整いました。どうか次の人生も善良に生きてください。」
トカゲの体が淡い緑の光に包まれ、少しずつ宙に浮く。
「……また会いましょう。」
トカゲの瞳が小さく輝いた。
ひと際強い光に包まれると、その姿は無かった。
世界にはまた暗闇が戻り、私一人だけが取り残される。
「ふぅ…」
一つため息を吐いてから椅子に身体を投げ出す。
片手を突き出し、ティーカップを『想像』する。
カップの中には甘く、熱い紅茶が注がれていた。
少しずつ喉を潤しながら、先ほどトカゲを消えていった位置を見上げる。
「ドラゴンかぁ……」
トカゲいったいどこでその存在を知ったのか分からない。
確かに強大な力を持つドラゴンは魅力的だが、力が強ければそれだけ敵も多いのだ。
だからといって弱い生物への転生を望むのも得策とはいえない。
ハッキリ言って、転生も運次第だ。
飲み終えたカップを放り投げると、地面にたどり着く前に姿を消す。
長髪を整え、椅子に座り直してから暗い空に向かってつぶやく。
「……1115番、次の対象生物をお願いします。」