第190話 「胎児」
特定の条件を満たしたものが、半強制的に配属される『死神課』。
女神学校で、必要のない体育の授業があった理由がやっとわかった。
あれはいわば、死神の選別なのだ。
「私は遥か昔、『死神課』からこの世界に派遣された死神です」
「えぇ!? ベルタ様は死神だったんですか?」
パームが目をパチクリとさせて驚く。
「そうですパーム。
私が死神だと知っている者はほとんどいません」
「……でも、それがリッカを襲った理由と関係があるんですか?」
「それにはまず、『天空人』という種族について話す必要があります」
ベルタが自分のカップにお茶を注ぐ。
私もこの時、喉が渇くのを感じてお茶に口を付けた。
「リッカ、貴女は『天空人』についてどう思いますか?」
隣に座るパームを見て、様々なことを思い出す。
『感覚』、『想像』、『魔力』、『翼』。
実物を見なくてもわかる。
「私たち女神と……いや、天界の住人と似ています。
ただ……」
「私たちより劣っている?」
「……はい」
言いにくいことをベルタがサラッと代弁する。
でもその通りなのだ。
「私たちの能力を持っているが、その力は弱く、人間に近い。
これが何を意味するかわかりますか?」
そんなこと言われたって……
少し考えて、実はみんな怠けた女神だと結論付けた時、カップを空にしたグレンがぽつりと呟いた。
「女神の血が混ざってる?」
それはないだろうと思い、ベルタを見ると、こくりと頷いていた。
「……そういうことです。
私はこの世界で子を授かった。
そして、その子もまた成長し、子孫を残す。
女神の血は薄れても、その力は確かに残り続けました」
「じゃ、じゃあ、ベルタ様は私のおばあちゃん……?」
「ひいひいひいひいひい……くらいかな?」
パームが指を折り曲げながら目を回している。
「最初は小さなコミュニティでしたが、今では世界中に認知される種族です。
……異世界からの来訪者が作り上げた本来なら存在しない種族。
私がしてしまった事は、魔王よりも世界のバランスを崩したと言えます」
「だから死神が狩りに来たと思ったんですね」
まだこんがらがっている事があるが何となく理解した。
天界から派遣された死神ベルタが、男の人と『チュー』をして子供を作り、今に至るということだ。
「いやーでもまぁ、私には関係のない話ですね!
堕天しちゃってますし、もう『死神課』とかあっても知ったこっちゃないですね!
偶然、ベルタさんの居る世界に堕天できて良かったです」
私がへらへらと言うと、ベルタが渋そうな顔をする。
「……偶然ね。
剣と魔法の適応しやすいスタンダードな世界。
魔王が侵略をせず、情勢も安定している。
そして様々な状況を知る私がいる。
これは本当に偶然ですか?」
へらへら顔のまま、冷や汗が流れた。
私は天界のシステムによって堕天したのではない。
堕天が確定した後、先回ってアイメルト先生の手によって堕天した。
「ある特定の『条件』を満たした者が死神課に配属されると言いましたが……。
その条件の一つに、『堕天した世界で魔王を討伐した』というものがあります」
唇が『へ』の形になるのが自分でも分かった。
それは今の私が置かれている状況そのものだったからだ。
「リッカ、貴女は今まさにその条件を達成できるか監視されているでしょう。
貴女は既に、『死神の卵』です」




