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第163話 「刹那の思惑」


赤い光が横切るのを感じ、目を覚ます。

暗い小屋の中、隅っこでグレンが寝ているのを見つけた。

だが、隣の寝袋は空っぽだ。


窓の外から赤い光が差し込み、また暗くなる。

時々、飛び跳ねるような音も聞こえる。



「子供みたいにはしゃいじゃって……」



初めて雪を見るのなら無理もない。

私も子供の頃は寝ずに遊んだものだ。

少しくらい五月蠅いのは勘弁してやろう。


ポーチの中から耳栓を取り出し、寝袋に潜り込んだ。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「あっぶい……!」



氷の矢を屈んで避ける。

一歩遅ければ、頭にぐさりだった。



立ち上がりながら、魔法陣を『想像』する。

とにかく火の魔法を『固体化』と『射出』で撃ちまくった。



魔法陣から放たれた火球は、地面の雪を抉りながら突き進む。

だが、先ほどから狼はそれを難なく避けている。

意外と火球の速度が遅いのだ。牽制の役割にしかならない。



また突進してきた狼を避けると、雪が解けて地面がむき出しになった所で転んでしまう。

石畳みの地面が、私の腕をガリガリと傷付けた。



「うぅーもう!」



泣きそうになりながら魔法陣を想像する。

固体化と射出では当たらない。

別の変質文字を加えなければ。



左手に持つ魔導書から、適当な文字を拾い上げる。

『粘化』と『噴出』だ。



魔法陣からは、マグマのようなモノがべちゃべちゃと飛び出した。

雪を溶かし、地面をむき出しにしていくが、如何せん射程が短くて狼まで届かない。

ダメだ、役に立たない。



狼の様子を見ると、角を光らせ始めていた。

今度は魔法が来る。どうせ氷の矢だ。


直情的な魔物ゆえに、さっきから頭しか狙ってこない。

やろうと思えば、首をひねれば避けられる。



まだ魔法の発動まで時間がある。

そう思い、魔導書に目を移した。


一瞬で次の変質文字を決めた時、視界の端に狼の姿が迫っている事に気が付いた。

狼は、角を光らせながら私に突進してきていた。



「ぐ……うぅ!」



無理やり身体を仰け反らせ、何とか避けようとする。

しかし、左手が狼の前足にぶつかり、魔導書を手放してしまった。


体勢を整えてすぐに飛び退けて距離を取る。



この狼……魔法を撃つと見せかけて突進してきた。

フェイントをかけてきたんだ。馬鹿じゃない。



手放してしまった魔導書は、狼の足元に転がっていた。

あれは取りに行けない。もう別の文字を描きこめない。


つまり今まで放った魔法、マグマのドロドロと火球で狼を倒す必要がある。

火球は簡単に避けられるし、マグマは射程が短い。

絶望的だ。


この魔法が通じないのなら、使い方を変える必要がある。

私だけが使える魔法の唱え方。

元女神で、大魔法使いリッカちゃんのみが出来る使い方だ。


それを思案しながら狼に向き直る。

傷ついた腕から、血が流れ落ちた。


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