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第153話 「存在しない道」

 

「おばあちゃん、お邪魔します。グレンです」


「お邪魔しまーす……」



 扉を開けてツリーハウスの中へ入る。

 返事はない。


 扉を入ってすぐリビングルームだった。

 大きな木の机があり、その上には精霊を模った置物がある。

 正面奥には暖炉があり、私たちに背を向けて座る人影があった。



「グレンさん、おばあちゃん居ましたよ」


「あぁ……。

 おばあちゃん、こんばんは……?」



 反応はない。

 暖炉の火に照らされて、おばあちゃんの影がユラユラと揺れる。



「おばあちゃん?」



 グレンがおばあちゃんに近づき、肩に手を乗せた。

 すると、白目を剥いた顔がカクッと私たちの方に傾いた。

 声にならない悲鳴が出て、パームにしがみつく。



「ぎゃぁ」


「ぐれ、グレンさん、おばあちゃんシンデマス……」


「あーうん。

 そろそろ生き返るんじゃないかなぁ。

 おばあちゃん、みんな驚いてるよ」



 そういいながらグレンがおばあちゃんをカクカクと揺らす。

 すると、白目がクルンと元に戻った。



「ひゃぁ、孫が来るなんて久しぶりだから驚いて死んじゃったよ。

 この年になると、なんでも心臓に負担だねぇ」



 ふぇふぇふぇとおばあちゃんが笑った。



「家に誰か来ると、毎回こうやって驚かすんだ。

 本当に勘弁して欲しいよね」



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 おばあちゃんは、グレンの母方の祖母。

 もう腰が曲がっているかなり高齢のおばあちゃんだ。

 先ほどの一件が無ければ、見ているだけで和む雰囲気のある人だ。



「リッカさん、このお鍋を机に運んでくだされ。

 パームさんは、食器をお願いします」



 おばあちゃんと夕食の準備をする。

『座ってて』とは言われたが、おばあちゃんを一人で働かせるのは見てられなかった。


 完成したのは、森の恵みを詰め込んだ特製シチューだ。

 お肉と野菜がたっぷり入っている。



「いただきまーす」



 小さく切られたお肉はとろける様で、野菜も舌で潰せるほど柔らかい。



「若いのにごめんねぇ。

 年を取ると、こういった柔らかいモノしか食べられないんだよぉ」


「いやいや、とっても美味しいですよ!

 初めての感触です!」



 シチューのお代わりをよそっていると、パームが口を開く。



「一つ、はっきりしたことがあるわ。絶対、梯子以外の迂回路があったでしょ。

 この人には、あの梯子は苦すぎるわ。上れるはずないもの」



 私もそう思っていた。

 空のお鍋を持つだけで手が震えていたのに、梯子なんて上れるはずがない。



「さぁ、どうでしたかねぇ」


「あ! これ迂回路が絶対あるやつ!

 グレン、私に嘘を吐いたでしょ!」


「えぇっ、嘘なんて吐いてないさ。

 迂回路はない。明日になれば分かるさ」



 私は見てしまった。

 おばあちゃんがパームに隠れてほくそ笑んでいる所を。


 ……これは明日も何かあるな。


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