第13話 「踏まれし者 6」
大陸のはるか北西。
遠い昔に滅んだ王国があった。
その廃墟となった建物の一つが突然崩壊し
土煙の中から何かが現れる。
魔力で形成された大きな身体を持つ―――魔力人形だ。
俺は崩落する建物から脱出し、崩落した広間に躍り出る。
魔力人形は離れているのに見上げるほど大きい。
大きいなら都合がいい。
迫ってきた巨大な拳を大きく舞って避け、腕を斬りつける。
魔力でかたどられている為か、手ごたえを感じない。
宙で姿勢を整えながら魔法で大きな火の玉を乱射する。
うねりを上げた火の玉は、狙い通り魔力人形の顔に命中する。
声にならないうめき声をあげ、魔力人形がふらつく。
魔法が有効か。
それなら…!
魔力人形から距離を取り、崩れかけた教会の上に陣取る。
両手を空に突き出し、魔法の演唱を始める。
「神の遣わす聖なる槍よ、我が道を切り開け!」
雲に覆われた薄暗い空に、光の魔法陣が浮かび上がる。
「ペネトラージャ!!!」
魔法陣から現れた無数の大きな光の槍が
魔力人形へ向かって降り注ぎ、大きな轟音を立てる。
光の槍は魔力人形を蹴散らし
辺りの建物が粉々になってようやく収まった。
霧散していく魔力人形を俺は頭上から見下ろしていた。
魔力人形は普通なら彫刻などを魔法で動かす。
だが、コイツは魔力で身体を形成したものだった。
普通の魔力人形の扱い方を知らない、もしくは…
「アホみたいに魔力を保有しているか…?」
「『アホみたい』とは心外じゃな。」
急に真後ろからしゃがれた声がした。
反射的に片手剣を後ろへ振り抜く。
バチッと音がして、青い壁によって剣が防がれる。
「フェッ!物騒じゃなのう。」
剣が押し返され、身体も見えない力によって吹き飛ばされる。
宙に投げ出され、慌てて着地に備えて姿勢を整える。
辛うじて受け身を取り、建物から見下ろすソイツをにらみつけた。
開いているかわからない程目が細い禿げ頭の爺さんだった。
「問おうか、若いの。」
爺さんが張り付けたような笑顔のまま聞いてきた。
「お主が『勇者』か?」
ゆうしゃ…?
あの物語の最後に『魔王』を討ち滅ぼす『勇者』のことか?
生憎、『勇者』なんてのは柄じゃない。
「…いや、違うな。」
「ふぅむ。そろそろ来てもおかしくはないんじゃがな…。」
爺さんはわざとらしく考え込む動作をする。
「それで爺さん?あんたは何者だ?」
「ほぉ?おぬしらがそれを問うのか?
勝手に人のことを『魔王』などと呼んでおきながら。」
この爺さんが魔王…!?
動けるのが不思議なくらいヨボヨボな体をしている。
「『勇者』じゃなければ用はないのう。」
そういった爺さんの周りに、魔法陣が浮かび上がる。
10…20…30!
そしてその魔法陣から、またしても魔力人形が現れる。
俺は片手剣に魔力付与を施し
迫ってくる魔力人形に備える。
地響きを上げながら近づいてきた魔力人形の拳を低くかがんで躱す。
そのまま膝のバネを利用して魔力人形に突っ込み、股下から大きく剣を振り上げて頭まで両断する。
タックルしてきた魔力人形を思いっきり蹴り飛ばす。
吹っ飛んだのは魔力人形のほうだ。
「業火に焼かれろ!!」
左手から巨大な炎の塊が飛び出し、蹴り飛ばした魔力人形を一瞬にして消し炭にする。
魔力人形を斬る、殴る、蹴る、叩き潰す、燃やす、押しつぶす……。
いくら魔力人形が居たってコイツらに劣ることはない。
それは爺さんにもわかるだろう
じゃあ爺さんの狙いは何だ…?
合間を縫って爺さんをチラッと見る。
教会の屋根の上に相変わらず立っている。
…?
爺さんの左手に…小さな小さな魔法陣が浮いている。
その魔法陣からは、今までに感じたことのないほど巨大な魔力を感じる!
「ふぇ?ばれちゃった?」
爺さんが拍子抜けした笑い声をあげる。
魔力人形は時間稼ぎか…!!
魔力人形を無視して一気に地を駆ける。
爺さんがボソボソと魔法の演唱を始める。
教会の下から思いっきり跳躍し、爺さんを斬りつけようとした。
「…『動くな』」
爺さんに剣が届く寸前
俺の身体は動かなくなった。
否、世界が動きを止めた。
魔法の表現 変えてみました☺︎




